2013 Fiscal Year Research-status Report
水素イオンの移動により誘起される新規抵抗メモリ効果の機構解明と性能の見極め
Project/Area Number |
25820143
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
木下 健太郎 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60418118)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 次世代メモリの研究開発 / メモリ素子の高機能化 |
Research Abstract |
本研究は我々が発見した、水素イオン移動によって生じる新規の抵抗変化現象の基礎的な物性解明とメモリ素子としてのパフォーマンスの見極めを目的とする。これまでに、Bi2Sr2CaCu2O8+δ(BSCCO)単結晶をメモリ層に用いたPt/BSCCO/Pt構造にて以下の成果1-5を得た。 1. BSCCO単結晶表面にPt電極を形成し(Pt-ELbef)、水素アニール処理することで、BSCCO内に水素が取り込まれ、メモリ効果が生じることを確認した。2. Pt/BSCCO/Ptの基本メモリ特性 (I-V特性、スイッチング可能回数、データ保持寿命)が明らかにされた。3. Pt/BSCCO/Ptに短電圧パルスを印加することで水素イオンのみを、長パルスを印加することで水素と酸素イオン両方の移動をそれぞれ誘起し、長短パルスの組み合わせにより、酸素、水素それぞれのイオン移動の独立制御も可能となった。これにより、多値化に有利な細かい抵抗値制御が可能となった。今後、移動イオン種の選択性を活かした全く新しい素子応用へと繋げたい。4. 特別なジグを作製することでPt/BSCCO/Ptに電圧を印加しながらの放射光測定が可能となった。これにより、抵抗変化に伴って、XAFSスペクトルに変化が生じる兆候が初めて捉えられた。蛍光法と透過法の組み合わにより、Pt-ELbef/BSCCO界面近傍のCu価数が変化することで抵抗変化が引き起こされることが示唆された。5. 放射光の偏光と入射角度がXAFSスペクトルに及ぼす影響を調べた結果、BSCCOのCuO2面内のOにHが結合/解離することで高/低抵抗化することが示唆された。即ち、実効的なCuOHの生成/分離によって抵抗変化が生じるモデルが提案された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定の研究項目1-5について達成度を示す。 1. BSCCO単結晶の導入とその劈開性を活かし、結晶粒界の測定への影響の排除と清浄な電極/BSCCO界面の取得が保証されたメモリ特性の評価が可能となった。基本物性(電気特性、温度特性)、基本メモリ特性(データ保持寿命、スイッチング可能回数)、パルス応答特性(スイッチング速度、移動イオン種の識別)の系統的評価、抵抗変化と超伝導特性の関係、超伝導状態での電特評価等、BSCCOの特徴を活かしたパラメータ抽出を目的としていたが、この内、電気(I-V)特性、スイッチング回数については測定が完了しており、パルス応答及びデータ保持寿命については測定中である。2. H26年度に実施。3.Spring8にてPt-TE/Bi2212/Pt-BE構造のCu K-XAFSスペクトル及び抵抗変化前後のCu K-XAFSスペクトルを取得し、差分をとった結果、抵抗変化に起因して8.99 keV付近にスペクトル変化が生じることが確認された。X線のダメージによる試料の経時変化の可能性も考慮に入れて検討した結果、観察されたスペクトル変化はイオン拡散によるものである可能性が高い。スイッチングに伴う電子状態の変化が確認されたのは世界初である。4. H2導入されたPt/Bi-2212/Au 構造にAr アニールを施し、水素と酸素欠損が共に導入された試料を作製した。これに10 μsより長いパルスを印加した時、酸素イオンモードで、10 μsより短いパルスでは、水素イオンモードでそれぞれ抵抗スイッチングが生じることが確認された。この結果は、抵抗スイッチングが酸素と水素の二種類のイオンの移動で生じており、イオンが移動する向きとそれに伴う抵抗スイッチングが逆であることを示唆する。5. H25年度の研究結果に基き、BSCCOのCuO2面内のOにHが結合/解離することで高抵抗化/低抵抗化する独自のモデルを提案した。
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Strategy for Future Research Activity |
概ね計画通りに進行中であり、H26年度についても当初の計画通り研究を進める。実績欄にて述べた抵抗変化に伴う電子状態の変化が観測されたのは本研究が初めてであり、スイッチングメカニズム解明と今後の素子設計の観点から極めて重要な結果であるため、特にXAFS測定の再現性確認に力を入れる予定である。これについては、既にSPring8のH26年度研究課題として採択が決まっており、5月に実験が行われることになっている。SPring8におけるXRD測定も既に実施済みであり、現在、データ分析中である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度開始直後はメタルマスクの作製や応用物理学会に参加しての情報収集など、ある程度当初の計画通りに予算執行を進める予定であったが、研究を進めていく中で、試料内部におけるイオン拡散について詳細に調べる必要性が生じた。このため、インピーダンスメータの購入を検討するに至ったが、これには200万円程度の費用が見込まれる。故に、今年度の支出を抑え、次年度のインピーダンスメータ購入に備えた。 今年度は95万円程度、H25年度の使用計画額を下回るよう出費を抑えた。これに次年度予算を加え、200万円程度のインピーダンスメータを購入する予定である。
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[Presentation] ペロブスカイト酸化物への水素イオン導入によって誘起される抵抗スイッチング効果の発現機構2013
Author(s)
花田明紘, 三浦寛基, 野津武志, 大沢仁志, 伊奈 稔哲, 鈴木基寛, 河村直己, 水牧仁一郎, 宇留賀朋哉, 木村滋, 岸田悟, 木下健太郎
Organizer
第33回 表面科学学術講演会
Place of Presentation
つくば国際会議場
Year and Date
20131126-20131128
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