2014 Fiscal Year Research-status Report
郊外住宅団地における住民運営型地域交通による地域力向上に関する研究
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25820242
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
猪井 博登 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70403144)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ソーシャルキャピタル / 住民参加 / 地域交通 / コモンズ |
Outline of Annual Research Achievements |
ケーススタディ地域としている兵庫県西宮市生瀬地区にて、2014年10月から2015年3月までの6か月間の住民運営型地域交通の社会実験を行った。その期間中に生じたソーシャルキャピタルの変化を把握した。その結果、地域活動や参加者のつながりの拡大が確認され、定性的ではあるが、地域の将来に向けた前向きな意向、地域内での会話の拡大がみられ、ソーシャルキャピタルの拡大を観測できた。加えて、地域活動・自治会活動の活発化、地域活動拠点の新設の議論および地域活動拠点開設による他の活動の活発化等、住民運営型地域交通を発端としたソーシャルキャピタルの再生産を確認することができた。 ソーシャルキャピタルの拡大するため、関係者の拡大を戦略的に行う必要性が明らかになった。具体的には、多様な参加の形を準備し、多様な人材や企業が参加可能としたこと、安全を確保し、運行を維持するため、地元タクシー事業者への情報提供及び今後継続的に事業を進められる企業体制への移行を働きかけたことである。 また、タクシー事業者に地域での乗合交通を提供する事業への参入意向について調査し、中規模のタクシー事業者への働きかけの重要性、収益の確保の重要性が明らかになった。 さらに、商店街を中心とした住民組織(商店街連合会)を中心に住民運営型地域交通に取り組むことの可能性およびソーシャルキャピタルの再生産への寄与を検討するため、香川県高松市丸亀町商店街で、安全化された自動運転ゴルフカートを用いた移動の提供を検討した。導入の在り方を検討するとともに2014年9月21日に社会実験を実施した。この社会実験の実施のため、商店街連合会、行政の協力を得るとともに、イベントの主題であるノーマイカーデーとの相乗効果を図ることができ、地元のソーシャルキャピタルの拡大を図ることが確認できた。また、今後の継続を検討している点からも、ソーシャルキャピタルの再生産を図ることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ予定通り展開しており、【研究実績の概要】でも述べたように、ケーススタディ地区での参与型研究でも、予定通り社会実験を重ね、研究課題としているソーシャルキャピタルの再生産を確認することができている。ただ、今回とらえているような短期的に生じるソーシャルキャピタルの再生産だけではなく、長期的な変化が重要であると考えられるため、継続的な働きかけの必要性と、長期の観測が必要であると考えられる。また、住民に対する調査も全住民を対象にする調査では、複数回の調査で調査疲れをしているなどがあるため、利用者に限定、調査方法をヒアリングに変えるなど工夫を実施した。 また、地域に交通を提供するタクシー会社の姿勢に関する調査なども行うことができ、関係者を住民から広げることについての知見も得ることができ、この点の達成度の向上に寄与している。 申請書に記載したスコットランドにおける情報収集については、スコットランドアバディーン大学に留学し、地域交通の研究を行った経験を有する豊田都市交通研究所福本雅之氏の講演会を開催し、現地の状況についての情報を入手することに変えた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで行ってきたケーススタディ地域での参与型研究を中心に研究を推進する予定である。2015年度10月より継続的な地域交通の運行に向けて取り組むことが住民組織との会議で決定しており、この本格運行に向けた議論を中心とし、この過程中にみられる地域の変化を記録することを今後の主な研究方策とする。この中では、社会実験などの有期の実験から無期の運行に変化することによる信頼感の醸成などが期待され、ソーシャルキャピタルの再生産過程の定着を中心に把握したい。この本格運行が実現しなかった際には、実現しなかった理由を把握するとともに、その過程を精査し、住民運営型地域交通の実施に至らなかった理由をソーシャルキャピタルの変化という観点で解釈を行う。また、これまでは選択肢の拡大は住民の満足やQoLの向上につながると考えてきたが、無秩序な選択肢の拡大は満足度やQoLを下げるという研究結果がビジネス分野で出されており、この点も考慮し実現に至らなかった場合の考察を行いたい。具体的には、住民のソーシャルキャピタルの拡大を提示する際に、無秩序に選択肢を拡大するのではなく拡大の提示方法や選択方法の枠組みを提供することが必要であると考えられる。この知見も手掛かりにして、検討を行いたい。 また、効果的な地域交通の在り方が、住民運営型地域交通の在り方にも合致するとともに、効果的な地域交通がソーシャルキャピタルの拡大につながると考えられるため、ICカードデータを利用し、住民の移動の実態を把握する方法を検討する。
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