2014 Fiscal Year Research-status Report
眼球運動中の視空間の知覚を安定的に維持する脳内メカニズムの解明
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25830009
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
稲場 直子 京都大学, 健康長寿社会の総合医療開発ユニット, 特定助教 (20432370)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | サッケード / 運動知覚 / 視覚ニューロン / 受容野 / MT野 / MST野 |
Outline of Annual Research Achievements |
【目的】眼が動くと、網膜に映った視覚像の位置は眼の動きに伴って変化するが、我々は連続的で安定した視覚情報を得ることができる。したがってヒトの脳には、自分の意志で眼を動かしたときに生じる網膜像のブレを補正して視覚世界を再構築する仕組みがそなわっていると考えられるが、その実態はいまだ明らかになっていない。 本研究では、高次視覚情報処理にかかわる大脳皮質後頭・頭頂連合野(MT/MST野)からニューロン活動を記録し、『眼球運動中の視覚環境はどのようにコードされているか:すなわち個々のニューロン受容野が眼球運動中にどのように変化するのか』を明らかにすることを目的とした。 【成果】マカクサル2頭を用い、MT/MST野からニューロン活動を記録した。これまでのところ、MST野には、サッケード眼球運動が終わった時点で、その瞬間に見えている視覚情報のみならず、眼が動き出す前に受容野の中にあった情報に関連した活動を示すニュ-ロンが存在することが明らかになった(memory remapping効果)。一方、MT野のニューロンは、その時点でニューロン受容野の中に呈示された刺激にのみ応答を示した。この結果は、「眼が動く前に記憶された視覚情報」がサッケード後にMST野で想起され、MT野からMST野に供給される「眼が動いた後の視覚情報」との統合が起こっていることを示唆する。 また、サッケード後にMST野で観察される活動は、眼球位置による修飾を受けることを示すデータも得られている。この結果は、memory remapping効果の源となる視覚情報入力が、脳のどの領野にどのような座標系で保持されているのか、また「眼が動く前に記憶された視覚情報」の想起をトリガーする眼球運動指令のコピー(遠心性コピー)がどの領野からもたらされるのかを探る糸口になると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までのところ、MST野には、MT野とは異なり、サッケード後に、眼球運動が起こる直前の視覚刺激の位置を反映した活動を示すニューロンが多く存在することが明らかになった。この成果は、Proc Natl Acad Sci U S A誌に掲載された。またその活動が眼球位置による修飾を受けることを示唆するデータが得られている。この成果は、2014年度の日本神経科学学会および北米神経科学学会で報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
サッケード後にMST野で観察される活動が、眼球位置による修飾を受けることを示すデータが得られている。したがって、これらの研究をさらに発展させ、memory remappingのもととなる視覚情報入力源の特定および眼球運動指令信号の遠心性コピーの機能的役割の解明を目指す。
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Causes of Carryover |
本研究課題を進める過程で、新たに、memory remappingに関連した活動が、眼球位置による修飾を受ける可能性が見いだされた。したがって、これらの研究をさらに発展させ、memory remappingのもととなる視覚情報入力源の特定および眼球運動指令信号の遠心性コピーの機能的役割の解明を目指すため、本研究課題を継続する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新規のサル1頭の購入および外科手術等のために必要な消耗品類の購入に充てる。
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