2013 Fiscal Year Research-status Report
父性発現の脳内機構:雄マウスの攻撃から養育への行動変化を制御するメカニズムの解明
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25830027
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
刀川 夏詩子 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (70424182)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 父性行動 / フェロモン / 養育行動 / 攻撃行動 / 鋤鼻器 |
Research Abstract |
これまでの当研究において、交尾未経験の雄マウスでは、仔が発するフェロモンによって鋤鼻神経回路が活性化され、仔への攻撃行動が誘発されるのに対し、父マウスでは、フェロモンを感知する入り口である鋤鼻器で既にその情報伝達が抑制され、その結果養育行動が発現することが示唆された。そこで、どのようなメカニズムで父の鋤鼻器では仔のフェロモンに対する感受性が低下しているのかを解明するために、本申請ではまず、仔のフェロモンを感知する“仔フェロモン受容体”の同定を試みた。具体的には、神経活動に依存してリン酸化されるribosomal protein S6 (pS6)の免疫染色と、各種フェロモン受容体のin situ ハイブリダイゼーションを組み合わせて行うことにより、仔を提示した際に活性化されたpS6陽性の鋤鼻神経細胞に共発現するフェロモン受容体の検索を行った。フェロモン受容体には、V1RとV2Rの2つのファミリーがあり、マウスには約180種類のV1R遺伝子、約120種類のV2R遺伝子が存在する。遺伝子配列の類似性により、V1R、V2Rはさらに大きく分けて8つのcladeに分類され、clade内の遺伝子の配列類似性は高い。そこで、多数のフェロモン受容体の中から、“仔フェロモン受容体”を同定するため、まず、clade内に共通する配列に対してプローブを設計し、8つのどのcladeに属するかを決定した。その後、個々の遺伝子の配列に特異的なプローブを作製し、“仔フェロモン受容体”の候補を絞り込んでいった。その結果、現在までにV1R 2個、V2R 1個を”仔フェロモン”の候補受容体として同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れている理由として以下の(1)~(3)を挙げる。(1) 活性化した神経細胞のマーカーの検討に時間がかかった。:当初は、仔フェロモン受容体を同定するにあたって、活性化した神経細胞のマーカーとして一般的に広く用いられているc-FosやEgr1のmRNAの発現と、各フェロモン受容体のmRNAの発現をダブルin situハイブリダイゼーションを行うことにより、c-Fos/Egr1陽性の鋤鼻神経細胞に発現するフェロモン受容体の検索を行っていた。しかし、鋤鼻器においてダブルin situハイブリダイゼーション法によるc-FosやEgr1のmRNAの発現解析が安定せず、活性化した神経細胞の安定したマーカーを新たに検討しなければなかった。その結果、リン酸化されたribosomal protein S6(pS6)が鋤鼻器において活性化した神経細胞のマーカーとして有効であることが分かり、これを用いて受容体のスクリーニングを開始した。(2) 個々のフェロモン受容体を認識する特異的なプローブの作成に時間がかかった。:フェロモン受容体の翻訳領域はclade内で相同性が高く、また、V1Rは翻訳領域にイントロンが無いため、個々の受容体を識別するには5’ 側あるいは3’ 側の非翻訳領域の配列に対してプローブを設計する必要があった。しかしながら、5’ 側のどこに転写開始点があるのかについての情報はほとんど無く、また、3’側についてもclade内で配列の類似性が高かったため、個々の受容体を同定するための特異的なプローブの作成に手間取ってしまった。(3) 複数の受容体候補の中から機能的な仔フェロモン受容体候補の絞り込みがまだできていない。:仔フェロモンの受容体候補が複数同定されたため、受容体欠損マウスの作製にあたって、どの受容体が機能的な受容体であるのかについて今後検討しなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
交尾未経験雄において、仔への攻撃行動を誘発する“仔フェロモン”の受容体候補としてV1R 2個、V2R 1個を現在までに同定した。今後はまず、これら複数の候補受容体のうち、どの受容体が仔への攻撃行動を誘発するのに機能的な受容体であるのかを検討する。具体的には仔への攻撃行動を誘発する化学物質(フェロモン)を仔の各分泌腺、尿、涙などから同定し、その化学物質を単独で提示した際に活性化される鋤鼻神経細胞に発現する受容体の検索を行い、機能的な受容体を絞り込んでいく。さらに、機能的な受容体が同定できたら、その受容体を欠損させたマウスを作出し、交尾未経験雄において仔への攻撃行動が抑制されているか否かを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度において、仔への攻撃行動を誘発する“仔フェロモン”の候補受容体の同定には至ったが、この中で、機能的な受容体についてまだ特定出来ておらず、平成25年度の予算として計上していたノックアウトマウス及びトランスジェニックマウスの作製費分が次年度使用額として生じてしまった。 仔への攻撃行動を誘発する“仔フェロモン”の受容体のノックアウトマウスと、そのプロモーターの下流に蛍光タンパク質を発現させたトランスジェニックマウスの作製費として使用する予定である。
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Research Products
(3 results)