2013 Fiscal Year Research-status Report
自閉症発症機序の解明に向けた新規自閉症感受性遺伝子Auts2の分子機能の解析
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25830030
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
Principal Investigator |
堀 啓 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 代謝研究部, 室長 (70568790)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 自閉症感受性遺伝子 / アクチン細胞骨格 / 神経細胞移動 / 神経突起伸長 / 精神疾患 |
Research Abstract |
精神発達障害の発症機構を分子レベルで明らかにすることを目標に、自閉症感受性遺伝子のひとつ、Autism Susceptibility Candidate 2 (Auts2) に着目して研究を行ってきた。Auts2遺伝子は、自閉症や知的障害を示す多数の患者で、相互転座など染色体構造異常の認められる遺伝子座にあることが報告されており、また大脳皮質や海馬、小脳など、高次機能を司る脳領域で強く発現していることから、これら精神疾患との関連が強く示唆されている。しかし、脳の発生過程においてAUTS2がどのような生理的役割を担っているのか未だ全く分かっていない。 本研究では、AUTS2がRac1やCdc42などRhoファミリーGタンパク質シグナル伝達経路を介して、アクチン細胞骨格系の再構築を制御する分子であることを見出した。さらに、本研究で作製したAuts2ノックアウト (KO) マウスでは、神経細胞移動や神経突起伸長に著しい障害が認められた。つまりAUTS2は、胎生期の大脳皮質においてアクチン細胞骨格系制御を介して、神経細胞の形態形成や脳組織構築など中枢神経系の発生に重要な役割を果たしていると考えられる。興味深いことに、このKOマウスはヘテロ接合体でも発生学的な異常に加え、行動解析では記憶障害などの高次精神機能障害も示している。さらに、これまでヒトで報告されている疾患例がいずれもヘテロ接合体患者であることから、このマウスがAuts2遺伝子異常によるヒト精神疾患様症状を反映していることが示唆される。つまり、Auts2遺伝子異常によるヒト精神疾患のモデルマウスとして、自閉症などの精神疾患の病態の理解や新たな診断法、治療法の開発に大きく貢献できることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成25年度研究計画として、(1) 培養細胞を用いたin vitro実験系によるAUTS2の分子機能を明らかにすること、(2) 子宮内エレクトロポレーション法を用いた個体レベルでのAUTS2機能解析、(3) Auts2 KOマウスを用いた解析を行なうことにより、大脳皮質形成過程でのAUTS2の生理的役割を明らかにすることを目標とした。本年度の研究実績として、計画(1)では、初代培養大脳皮質神経細胞などを用いた、各種Auts2変異タンパク発現実験およびRNAi干渉実験により、AUTS2がRhoファミリーGタンパク質シグナル伝達を介して、神経突起伸長や神経突起の分岐構造形成に関わることを明らかにした。また、計画(2)および(3)により、Auts2の発現をshRNAでノックダウンした場合、あるいは本研究で作成したAuts2 KOマウスを解析した結果、大脳皮質の神経細胞移動および神経突起伸長に著しい障害が起ることを明らかにしており、Auts2が大脳皮質の発生に重要な役割を担うことを見出した。また、平成26年度に予定していた、(4) Auts2 KOマウスを用いた行動解析も既に完了しており、不安行動や記憶形成など高次精神機能に障害を持つことを明らかにした。現在、上記の結果をまとめ論文として投稿中である。以上のことから、本研究の進行状況は当初の計画以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度ではAUTS2の下流因子として、Rac1およびその活性調節因子を見出したが、AUTS2を制御する上流因子やその他、AUTS2と相互作用する分子がまだ明らかとなっていない。また、AUTS2はCdc42シグナルに対して抑制的に働くことがRNAi実験などから明らかとなったが、直接これらを制御するAUTS2相互作用分子もまだ未定である。これまでにプロテオミクス解析により、in vitroでAUTS2と結合する候補分子が既に多数得られており、これら分子群より検索・検討を行って上記の分子機序を明らかにしていく。 また、Auts2遺伝子欠損により引き起される行動解析上の異常の脳責任領域を絞り込むために、今後は脳領域特異的なAuts2 KOマウスを用いた解析を行なう予定である。これまでの結果から、恒常性Auts2 KOマウスは胎生致死であったため、生後の脳発達過程におけるAUTS2の生理的役割については未だ解明できていない。しかし現在作成中のコンディショナルKOマウス、具体的には、現在大脳皮質特異的にCreを発現するEmx1-Cre、および小脳特異的なKOマウスを作成するためにEn1-Creとの掛け合わせを行なっており、既に解析に十分な数の成体のマウスが得られている。これらのマウスを用いて神経細胞の形態学的解析や電気生理学的手法を用いた神経回路網形成の解析、また行動解析など個体レベルでの解析を中心に本研究をさらに進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度はAUTS2の主にin vivoにおける生理的役割を明らかにするための解析を優先したため、本年度および次年度の実験計画に予定しておりました、AUTS2結合因子のプロテオミクス解析により得られた結合候補分子に関する分子機能の解析については、次年度に集中的に行なう予定にしており、解析に必要な抗体や試薬、また発現ベクターやshRNAベクター作成に必要なDNA関連試薬等の購入は次年度に行なうことにしました。 また、解剖学的・発生学的解析に加え、行動解析には大量のマウス繁殖・維持が必要であり、今後の行動解析の追加実験のために次年度分の予算を確保する目的で当該助成金が発生しました。 神経細胞内でのAUTS2の更なる分子機能を明らかにするため、先に行なわれたプロテオミクス解析により得られている候補分子群との相互作用解析を行なうため、候補分子に対する特異的抗体(もしくは抗体作製)の購入、また、遺伝子発現ベクターやshRNAベクターの作成、精製キットなどのDNA関連試薬の購入のために計上します。さらに、行動解析等の追加実験のために、マウスの購入費、飼育維持のための動物実験施設利用比が相当掛かるため、その予算として計上します。
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Research Products
(1 results)