2014 Fiscal Year Research-status Report
Necdin-Sirt1複合体によるミトコンドリア制御機構
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25830053
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
長谷川 孝一 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (20546783)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ニューロン / ミトコンドリア / 神経保護 / 神経変性疾患 / ROS / 神経発生 / パーキンソン病 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞小器官の一つであるミトコンドリアは、細胞内の主要なエネルギー産生の場である。脳やそれを構成するニューロンは、その活動に大量のATPを必要とし、ミトコンドリアで産生されるATPを細胞の生存や活性維持のエネルギー源としている。このため、ミトコンドリアの機能破綻はパーキンソン病をはじめとする神経変性疾患の病因となりうる。本研究対象であるnecdinやSirt1はニューロンにおいて複合体を形成し、ニューロンの生存維持に極めて重要な役割を果たす事をこれまでに見いだしている。本研究では、ミトコンドリア機能のマスター因子であり、かつ、Sirt1の脱アセチル化活性の基質であるPGC-1αに注目し、これら3者の分子メカニズムの解明を目指した。これまでに、necdinがPGC-1αのユビキチン化の抑制を介した安定化を促進する事を見いだしたが、平成26年度においては、PGC-1αを介したニューロン内における生理的機能に焦点を当て、解析を行った。昨年度までに、PGC-1αの安定化を介したミトコンドリア生合成の促進作用をnecdinが有する証拠を得ていたので、本年度では、ミトコンドリアを介した抗酸化作用について検討を行った。ミトコンドリア呼吸鎖複合体に特異的に作用し、活性酸素種(ROS)の産生を促す薬剤と、necdin欠損マウス由来の胎児脳大脳皮質から調整した初代培養ニューロンを用い、検討した結果、necdinはROS産生の抑制と、ROS誘導性のアポトーシスを阻害する事が明らかとなった。また、これらの効果は、necdinがPGC-1αの安定化と、それに伴うミトコンドリアの生合成の促進を介している事も明らかとなり、necdinはミトコンドリアの生合成と、これを介した抗酸化作用を促進する事を新たに見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NecdinがPGC-1αの安定化を介したミトコンドリア生合成と、抗酸化作用を有する事を、現象面や分子メカニズムの観点から、広くアプローチ出来、様々なエビデンスを得る事が出来た。しかし、一方で、Sirt1を介した脱アセチル化によるPGC-1αの活性促進作用と、necdinの関係性については、いくつかの手法を用いて検討したものの、現時点で十分議論出来うる証拠を得る事が出来なかった。これは、これまで報告にあるPGC-1αとSirt1の相互作用が、脳以外の肝臓や筋肉をはじめとする末梢組織を用いた解析が主であり、脳やニューロンではその関係性が異なっている事も示唆出来る。予想外ではあったが、necdin単体で、PGC-1αを介したミトコンドリア生合成と機能促進作用を正に制御している事は、大きな発見であり、これまでの到達度としては十分進行していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで得られた知見から、今後は、ミトコンドリアの機能破綻が関与する神経変性疾患の一つであるパーキンソン病を例に取り、necdinと神経保護作用について検討する予定である。パーキンソン病は実験的にモデル細胞やモデルマウスが確立しており、また、ミトコンドリアとの相関についても、多くの報告が存在する。これらのパーキンソンモデルを活用し、necdin誘導性のミトコンドリア生合成の促進を介した神経保護作用の効果の確認と、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患の新たな治療的、予防的手法の探索を行う。
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Causes of Carryover |
平成26年度は研究計画通り、概ね期待される結果が得られたが、今後の実験計画において、これまで以上のマウスの購入が必要となる予定である。パーキンソン病モデルマウスはC57BL/6系統を用いるが、これまで研究に用いていたICR系統より高額である事を考慮し、本年度分の一部を、次年度の予算に加える事で、無理の無い予算執行計画が立てられると判断したため。 また、予定していた海外での学会発表を次年度に変更したため、旅費等に関しても平成26年度の研究費に未使用額が生じた理由となっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記理由により、ICR系統より高額なC57BL/6系統の購入費等に、本年度分の予算を次年度に追加し、研究を円滑に行える体制を整える。 また、次年度には、ミトコンドリアに関する大規模な国際学会と、Neuroscience 2015が開催され、本年度分と併せて、両者に参加し、情報の収集と研究成果報告を行う予定である。
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