Outline of Annual Research Achievements |
うつ病の薬物療法はモノアミン仮説に基づいた薬物がほとんどであるが, 約3分の1のうつ病患者は従来の抗うつ薬が無効な, 難治性うつ病であることが知られていることから, 新規の抗うつ薬ターゲットを見出すことは急務である. 一方,ミトコンドリアは近年,神経細胞の分化や情報伝達を制御することが可能であり,個体を対象にした研究においても,精神疾患とミトコンドリアの障害の関連性を示す多くの報告が蓄積されてきている.そこで, 本研究ではうつ病の原因としてミトコンドリアの障害の関与を見出すことを目的とした. まず, マウスに2週間の拘束ストレスを慢性的に負荷した後, 強制水泳試験と尾懸垂試験に供すると, 無動時間の有意な延長を示すことから, 慢性的に拘束ストレスを負荷したマウスはうつ病様の症状を呈することが明らかとなった. さらに, これらのうつ病マウスの脳からミトコンドリアを回収し酸素消費量を観察すると, うつ病マウスで酸素消費量の低下が観察され, 脳組織における脂質過酸化の程度を観察すると, うつ病マウスで有意に高く, 活性酸素の産生量が増加していた. すなわち, うつ病マウスではミトコンドリアに何らかの障害がある可能性が示された. ミトコンドリアは変性タンパク質応答により, ミトコンドリア特異的な分子シャペロンを誘導することでミトコンドリアの障害に対処する事が知られている. そこで, うつ病マウスにおいて, 変性タンパク質応答に関わるHspa9, Hspd1, Ubl5, ClpP, Abcb10の発現を検討すると, 全ての分子の発現がうつ病マウスで有意に高い事が明らかとなり, さらに, すべての分子の発現がうつ病様行動と正に相関することが明らかとなった(Neurosci Lett, 2015). 以上の結果から, ミトコンドリアの障害はうつ病の治療ターゲットとなる可能性が示された.
|