2013 Fiscal Year Research-status Report
新規高血圧関連遺伝子HCaRGは腎細胞癌の腫瘍形成を抑制する
Project/Area Number |
25830090
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
松田 裕之 日本大学, 医学部, その他 (10646037)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | HCaRG / 癌 / ErbB受容体 / 細胞死 |
Research Abstract |
高血圧症は心血管系臓器障害や腎臓障害を引き起こすだけではなく、腎癌の独立した危険因子であることが報告されている。しかし、高血圧症が腎癌を引き起こす明確な成因は明らかになっていない。Hypertension-related, calcium-regulated gene (HCaRG/COMMD5)はヒト腎細胞癌で発現が低下しているだけではなく、腫瘍径が大きく予後不良であった患者の正常尿細管においても発現が低下していた。 そこで、腎細胞癌におけるHCaRGの抗腫瘍効果を明らかにするために、HCaRGを高発現させた腎細胞癌細胞株・悪性黒色腫細胞株を用いて、HCaRGの細胞増殖や細胞死に与える影響について検討した。HCaRGの高発現は、ErbB受容体の発現を低下させ、その下流のRAS/MAPキナーゼ やPI3キナーゼ/Akt/mTOR経路の活性化を抑制していることが分かった。そのために癌細胞の成熟化が促され、細胞周期が遅くなり細胞増殖が抑制されていた。また、細胞死に与える影響を調べたところ、アポトーシスには関与していなかったが、分裂期細胞死を伴ったネクローシスを介した細胞死を誘導していることも明らかになった。このHCaRG高発現腎細胞癌細胞をマウス皮下に同種移植したところ、HCaRGは生体内においても明らかに腫瘍の増大を抑制することが分かった。今後、これらの検体を用いて腫瘍血管新生や癌転移におけるHCaRGの働きを明らかにして行く予定である。 高血圧病態下の腎臓は常にストレスを受けており修復のために常にHCaRGの発現が亢進している。しかし、何らかの原因でHCaRGの発現が低下した場合に、HCaRGによる細胞の修復が失われ腎障害や腎細胞癌のリスクが高まると考えられた。今後、尿細管のHCaRGの発現を改善させることで、高血圧症性腎障害や腎細胞癌の予防につながるのではないかと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、モントリオール大学付属CHUM研究所の協力を得てHCaRG高発現癌細胞株細胞を用い、HCaRGの持つ癌細胞増殖抑制効果のメカニズムについて詳細に検討を行った。以前我々は、HCaRGは遺伝的高血圧ラットの腎尿細管に強く発現しており、急性腎障害後の尿細管上皮細胞においてp53経路とは独立したp21の発現を誘導し、虚血によって障害を受け脱分化した尿細管上皮の再分化を促進させ、腎機能障害や生存率を速やかに改善させることを報告している。今回の実験では、HCaRGは腎細胞癌においてErbB受容体のepigenetic gene silencingを促していた。ErbB受容体の発現が抑制されることで、その下流の情報伝達経路の活性化が抑制され、腫瘍増殖が抑制されていることが明らかになった。更に、アポトーシス介さない分裂期細胞死を伴ったネクローシスを介したプログラム細胞死を誘導していることも同時に明らかになった。HCaRG高発現腎細胞癌細胞をマウスの皮下に同種移植したモデルでは、癌細胞の増殖が抑制されているだけではなく、腫瘍血管新生も明らかに抑えられていることが分かった。これらの研究結果については、昨年度中に国内学会で発表を行い、現在専門誌に論文を投稿準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、悪性黒色腫の癌細胞株を用いて、その他の癌でもHCaRGが抗腫瘍増殖効果を示すのかどうかを腎細胞癌モデルと同様の実験を通じて検証を行う予定である。 また、癌細胞の特徴の一つでもある細胞浸潤、移動能の亢進についても検討を行う 。培養細胞を用いた実験では、細胞移動について創傷治癒実験を、細胞浸潤についてマトリゲルチャンバーを用いて評価する。移動・浸潤時の細胞内シグナルを解析するため、HCaRGとアクチンなどの細胞移動に重要な働きをしている因子の抗体を用いて免疫染色を同時に行う。これらの実験によりHCaRGの腫瘍転移に与える影響を検討し、そのメカニズムを明らかにする。動物実験モデルとしてHCaRG高発現癌細胞株クローンをマウスの尾静脈より投与し、2週間後に肺の癌転移結節の数と大きさを顕微鏡下とスライド上で観察する。この実験によりHCaRGの癌転移に対する影響を生体内で明らかにする。 さらに、本大学泌尿器科の協力を得て、ヒト腎細胞癌とその周辺の腎臓の組織における遺伝子発現を免疫染色法を用いて解析し、HCaRGと腎細胞癌、さらには腎臓病などの疾病とその発病リスクなどの関係を明らかにしていく予定である。最終的には、モントリオール大学から授受されたHCaRG高発現遺伝子改変マウスを用いて、鉄ニトリロ三酢酸の腹腔内反復投与などの方法で腎細胞癌の発癌誘導を行い、HCaRGの癌発生の予防効果を、動物モデルを用いて検証していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
発生した次年度使用額内で購入可能な必須の使用予定物品が存在しなかったため。 翌年度分として請求した助成金と合わせて、実験動物の購入や、ヒト腎細胞癌とその周辺の腎臓の組織を免疫染色法を用いて遺伝子発現解析をするために必要な消耗品などの購入に充てる予定である。
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