2013 Fiscal Year Research-status Report
16S rRNA遺伝子の異種間水平伝播の可能性を探求する
Project/Area Number |
25830132
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北原 圭 大阪大学, 情報科学研究科, 特別科学研究員 (30567855)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 遺伝子の水平伝播 / 分子進化 / メタゲノム |
Research Abstract |
「16S rRNA遺伝子は異種間水平伝播が困難である」という仮定の元で、本遺伝子の塩基配列相同性は微生物の分子分類指標として重用されている。この仮定(complexity仮説)を批判的に検証・評価するために、大腸菌に環境DNA由来の16S rRNA遺伝子を人為的に水平伝播させる実験を網羅的に行うことにより、本遺伝子の異種間水平伝播能を評価した。実験では、環境試料から直接抽出したメタゲノムサンプルを鋳型とし、PCRで増幅した16S rRNA遺伝子をin-fusion ligation法で発現ベクター上の相同領域と置換した。これらの異種16S rRNA遺伝子の中から大腸菌で機能可能なものを選択するために、大腸菌KT101株(Kitahara and Suzuki, Moll. Cell, 2009)の選択システムを用いた。選択された16S rRNA遺伝子をシーケンスすることにより大腸菌に水平伝播可能な16S rRNA遺伝子のリストを作成した。平成25年度には、35程度(重複を除く)のクローンを取得することに成功している。得られた遺伝子配列は16S rRNA遺伝子の配列解析用のユニバーサルプライマーを用いて配列を決定した。全長配列のアッセンブル後、マルチプルアライメントを行うとともに、分子系統樹を作成した。その結果、意外なことに、大腸菌が属するガンマプロテオバクテリアのみならず、ベータプロテオバクテリアの系統群に属する多くのバクテリア由来の配列も選択されてきた。これらの配列は、大腸菌KT101株で正常に機能できることが明らかになった。この結果は、異種バクテリア間の16S rRNAの交換(水平伝播)は不可能であるとするcomplexity仮説と真っ向から対立しており、本遺伝子を用いた分子系統学の基礎理論の妥当性に疑問を投げかけるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究計画では、以下の3点を達成目標として挙げていた。[1]水平伝播モデル実験: 申請者が独自に開発した大腸菌KT101株(Kitahara et al. Mol Cell 2009)を用い、大腸菌内で機能できる16S rRNA遺伝子を高品位メタゲノムライブラリーより網羅的に探索する。[2]RNA構造の解析: 得られた配列のマルチプルアライメントを行い、分子系統樹と二次構造マップを作成することにより、大腸菌に伝播可能な16S rRNAの配列的・構造的特徴を明らかにする。[3]形質変化の解析: KT101株のフェノタイプを解析し、異種由来16S rRNA遺伝子の中立性を増殖速度解析により明らかにすると同時に、薬剤耐性の「gain of function」が起こるかどうか調べる。 「研究実績の概要」にて述べたとおり、本年度の研究では、[1][2]について極めて明確な成果を得ることができた。[3]の目標の内、異種16S rRNA遺伝子を有するKT101株の増殖速度の測定は既に終了しており、その内の多くが正常な増殖速度を示しているところまでは確認することができている。しかしながら、期待していた薬剤耐性の「gain of function」が起こることは確認されなかった。このことの原因は、DNAを抽出した環境試料(土壌・海水・発酵食品)のいずれにも、薬剤耐性菌が元々少なかったためであるかもしれない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究計画では以下の2点を目標としている。[4]ハイスループット水平伝播実験: [1]の実験をより大規模で行う。スクリーニング用ロボットを使用して多数の異種由来クローンを得る。それらのフェノタイプ解析を行うことにより水平伝播の影響についての統計的な知見を得る。[5]薬剤耐性の「gain of function株」の直接取得: [4]の実験時に、選択培地に抗生物質を添加することにより、薬剤耐性クローンを直接取得する。このことにより、16S rRNA遺伝子が薬剤耐性遺伝子になりうるか直接検証する。また、モデル実験としてC1192G変異を有する16S rRNA遺伝子(ウシ腸内細菌由来)を導入した大腸菌がスペクチノマイシン耐性になるかどうか調べる。 [4]の実験は、平成25年度に行ったことのスケールアップであり、労力は必要であるものの、手堅い成果が期待される。この実験により、大腸菌で機能可能な16S rRNA配列がより多く取得され、「16S rRNA遺伝子は異種間を水平伝播しやすい」という私の仮説が一段と説得力をもって議論可能な状態になることが期待される。 [5]の実験は、平成25年度に達成できなかった部分([3])を研究内容として含むものであるが、ハイスループット実験を行ったり、使用するメタゲノムの由来を変更したりすることで実現を目指していきたい。この実験がどうしてもうまくいかなかった場合は、C1192G変異の異種16S rRNA配列を用いたモデル実験を行い、16S rRNA遺伝子の水平伝播が、薬剤耐性という具体的な進化的メリットを有する1例があることを報告することを目指したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、16S rRNA遺伝子の異種間水平伝播能の探求という、かつてない挑戦的テーマを掲げて実験を行った。それにもかかわらず、次年度使用額が生じた理由は以下の2点である。 [1]16S rRNA遺伝子の異種間水平伝播は、分子進化学の分野で考えられていたよりも遥かに起こりやすい現象であり、小規模な実験のみで検証が可能であったため(このこと自体が大きな発見である)。 [2]本研究の遂行に当たり、共同研究者からの全面的な協力が得られたため、当方で負担する研究費が最小限に抑えられたため。 平成25年度に得られた有望な研究結果に基づき、実験をスケールアップして行うための費用とする。 次年度使用額を有効利用するために、例えば振とう培養用非接触濁度計のような最新機器や、複数の培養用シェイカー・インキュベータを導入し、実験の効率と精度を飛躍的に高めていきたい。これらの機器は、本研究をよりレベルの高いものとし、その結果が世界の研究者から支持されることに貢献するものと考えている。
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