2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25830142
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宇田 新介 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20599609)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / 情報理論 / 頑健性 |
Research Abstract |
PC12細胞に成長因子などによる刺激を与え,下流の早期応答遺伝子群を含むERKシグナルネットワークにおいて1細胞レベルでの応答の標本データを,定量的免疫染色法を用いて取得した.得られた標本データから応答の分布を推定するため,適応分割法を実装し,単純なヒストグラムを用いるより精度よく,応答の分布を推定することが可能となった.推定した分布より相互情報量を算出するコードを実装し,細胞内における情報伝達の解析が可能となった. ERKシグナルネットワークの各経路の相互情報量を算出し,解析を行った結果,成長因子による刺激から下流の早期応答遺伝子まで伝達される情報量は約1ビットであることがわかった.刺激に用いる成長因子の種類を変えても,同様に伝達される情報量は約1ビットであったが,情報伝達に用いる主な経路は異なることがわかった.さらに,経路の一部に薬理的阻害による摂動を与えても伝達される情報量は約1ビットに保たれており,情報伝達が摂動に対して頑健であることがわかった.情報伝達が頑健である理由のひとつに,摂動を受けた経路が伝達する情報量が減少しても,摂動を受けてない別の経路による情報伝達量が増える,一種の補償的仕組みがあることがわかった.また,情報伝達は成長因子の刺激によって生じる表現型である神経突起伸張に対しても摂動に対して頑健であることがわかった. 細胞内シグナル伝達において,情報伝達に頑健性と補償性があることを情報量を用いて示したのは本研究が初めてである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ERKシグナルネットワークにおいては,当初の計画よりも順調にデータが取得できたため,分布の推定や相互情報量を算出を早めて行い,解析を前倒しした.神経突起伸張の計測においても,画像解析の改善により,計測が可能となった.結果として,細胞内シグナル伝達において,情報量を通して定量的に調べることで,情報伝達に頑健性や補償性があることがわかり,収穫があった. 一方,AKTシグナルネットワークのデータ取得は遅れている.原因のひとつは,AKTの活性は膜に局在するため,ERKシグナルネットワークで計測した分子種よりも画像解析による定量化が難しいことがある.ふたつめの原因は,先行研究で示されたようなERKとAKTによる相互作用によって神経突起伸張と細胞増殖の細胞運命が決定されることの再現が十分に取れず,AKTシグナルネットワークのデータを取得することの意味が薄くなっていることがある.再現がうまく行かない原因としては,AKTシグナルの活性の定量化が難しいために現象の抽出がうまくできていない可能性や,そもそも細胞株の違いによって現象が異なっている可能性がある.
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Strategy for Future Research Activity |
ERKシグナルネットワークの情報量の解析により,情報伝達に頑健性と補償性があることが実データによって本研究で示された.しかし,頑健性と補償性を生み出す仕組みは,まだ十分にわかっていない.よって,情報伝達が頑健になされる仕組み,および,補償性を持つ仕組みを明らかにする.仕組みをよく知るためには,数理モデルによる解析が適している.頑健性と補償性をよく表すような数理モデルを設計し,解析計算と計算機シミュレーションを併用して仕組みを解き明かす. AKTシグナルネットワークのデータ取得,および,解析は,AKT活性の定量化の改善を画像解析の点から試みる.AKT活性の定量化がうまくできるようになれば,ERKとの相互作用を確認する実験を行う.ERKとAKTの相互作用が細胞運命決定に効いていることを確認した後,AKTシグナルネットワークのデータを取得し,情報量の解析を行う.もし,計測や再現がうまく行かない場合は,情報伝達の頑健性と補償性の仕組みを解明することに研究テーマを絞ることを検討する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
AKTシグナルネットワークの定量的免疫染色を用いた測定の実験計画を一部保留したことに伴い,今年度の実験用消耗品(抗体,試薬など)の購入が当初の見込みより少なくなったことが理由である. 保留した測定実験は,次年度に行う計画である.よって,保留した測定実験の消耗品購入に使用する予定である.
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Research Products
(2 results)