2013 Fiscal Year Research-status Report
情報基盤定量プロテオミクスで全身代謝ネットワークを可視化する
Project/Area Number |
25830143
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松崎 芙美子 九州大学, 生体防御医学研究所, 研究員 (10631773)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 定量プロテオミクス / 代謝ネットワーク / 絶対量ベース代謝システム解析 |
Research Abstract |
本課題においては、個体レベルでの代謝ネットワークの包括的な理解を目的とし、マウス各臓器における全代謝酵素の絶対量の測定と、その定量値を用いた代謝ネットワーク特性の解析(可視化)を行う。平成25年度は、本課題目標の達成に向けて、以下の2点について研究を遂行した。 1) 代謝酵素絶対定量方法の検討 マウス各臓器を対象として「情報基盤定量プロテオミクス」を行うにあたり、標準物質としてリコンビナントタンパク質を用いる方法と、合成ペプチドを用いる方法を比較検討し、代謝酵素の定量方針を決定した。計画では全てのマウス代謝酵素のリコンビナントタンパク質を作製して質量分析を行い、定量に必要なペプチド情報を取得することを第1選択としていたが、労力・コスト面において負担が大きすぎたため、ヒトのリコンビナントタンパク質を用いて得られたペプチド情報を基に、マウスを対象とした定量において有効なペプチドを選別し、定量測定に利用する方法を検討した。その結果、合成ペプチドを用いた方法は、労力・コスト面での負担が軽いだけでなく、質量分析時のスループットも非常に高いことが明らかになったことから、標準物質として合成ペプチドを用いた定量方法を採用することとした。 2) 代謝ネットワーク解析法の開発 取得予定の代謝酵素絶対量データと既知のネットワーク構造情報を活用して各臓器の代謝ネットワーク特性を解析するために、新たな数理科学的方法論である絶対量ベース代謝システム解析(Absolute quantity-based metabolic systems analysis (AMSA))を開発した。この方法では、定常状態における代謝酵素と代謝物の絶対量データ、および一部の流束値を用いて、各代謝経路の定常状態流束の推定、各代謝酵素が各代謝物濃度や流束に与える影響の推定(感度解析)、代謝物濃度のダイナミックシミュレーション等が可能である。本成果については現在論文投稿準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各種条件検討および方法論開発は順調に進行し、期間終了までに本課題の目標を達成できる見通しが立った。一部計画を修正したが、課題の実行に際して発生した問題への適切な対処であったと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の成果により、実際にマウス臓器において全代謝酵素絶対量を測定し、代謝ネットワークの特性解析を行う準備が整ったことを踏まえて、今後以下2点を遂行する。 1) 全代謝酵素絶対量の計測 マウス各臓器からのプロテオームサンプル調製プロトコールを最適化した後、全代謝酵素の絶対定量を目指して、大規模に「情報基盤定量プロテオミクス」を実施する。具体的には、C57BL/6野生型マウスを用いて、特に肝臓・骨格筋より抽出したタンパク質を酵素消化した試料を調製し、代謝酵素の絶対量を網羅的に測定する。同時に各臓器の代謝物絶対量の測定も実施する。代謝異常の一例として肥満モデルマウス(レプチン欠損ob/obマウス)についても同様に全代謝酵素と代謝物の絶対量データの取得を行う。 2) 代謝ネットワークの数理科学的解析 1) で取得した各種絶対量データを基に、平成25年度に確立した絶対量ベース代謝システム解析(AMSA)を実施し、各臓器の代謝ネットワーク特性を解析する。まずは、既知の代謝ネットワーク構造と絶対定量時の代謝酵素の検出の有無により、各臓器のネットワーク構造を特定する。その後に、臓器ごとに各代謝経路の定常状態流束と各代謝酵素の感度値を算出することで、各臓器の代謝特性を明らかにする。そして、各臓器の代謝ネットワーク情報を、臓器間の代謝物のやりとりや、ホルモン制御等による相互作用の知見により連結し、「代謝ボディマップ」を作製する。さらに、野生型と肥満モデルマウスの代謝ボディマップを比較することで、肥満状態で変化が見られる部分代謝ネットワークの抽出や特性評価を行う。これらの解析を通して、代謝ネットワークの破綻としての疾病や、個体レベルでの代謝の包括的理解を目指す。
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