2013 Fiscal Year Research-status Report
Cry1タンパク質のリン酸化依存的分解を介した、細胞シグナルの統合と概日時計調律
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25830146
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大出 晃士 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40612122)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 概日時計 / リン酸化 / Cry1 |
Research Abstract |
Cry1のリン酸化による、概日周期の動態変化に関して、質量分析を用いて決定したCry1リン酸化サイトについて変異を導入し、リン酸化変異Cry1を作成した。この変異Cry1を用いて概日時計周期長への影響を調べたところ、周期長が短くなるもの長くなるもの、振幅が減弱するもの、概日周期性を欠くもの、といった一連の影響を示すリン酸化サイトをそれぞれ複数得た。また、概日周期性を欠く変異体について、野生型細胞に対して過剰発現させることでドミナントエフェクトを検討したところ、周期長を顕著に短縮する影響を持つもの、振幅を顕著に減弱させるもの、野生型に対して影響を示さないもの、の3種類に分類できることが明らかとなった。これらの変異体について、Cry1の有する転写抑制活性と、タンパク質安定性に対する影響を検証したところ、転写抑制活性は概日周期の振幅が、タンパク質安定性は概日周期長とよく相関することを見出した。さらに、概日周期長とCry1の安定性の関係を構成的に示すために、オーキシン依存的にCry1を分解する系を構築し、Cry1の分解に伴う周期長変化を確認した。 これらの結果は、Cry1のリン酸化によって、概日時計の周期長が長短双方に変化すること、およびその原因としてCry1の安定性が安定化・不安定化の双方に制御されていることを示唆している。また、これまで明らかでなかった、Cry1の分解を促進すると考えられるリン酸化サイトを絞り込むこともできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画段階では、Cry1のリン酸化サイト変異を用いて、その概日時計への影響を調べること、Cry1の生化学的性質への影響を調べること、これらを通してCry1リン酸化による概日時計制御の定量関係を明らかにすることを目的として挙げた。まず、概日時計への影響については、周期長・振幅の双方を評価し、さらにドミナントエフェクトのアッセイ系を構築することで、概日周期発振をサポートしない変異体についても、詳細な影響を検証することに成功した。また、生化学的性質については、転写抑制活性と安定性について詳細に検討し、それぞれ振幅と周期長と相関することを定量的に評価することができた。これらの結果は、当初の目的を計画通りに達成することができたと考えている。 また、リン酸化についてはその責任酵素を同定することも目的としている。これは、未だ明確な結論は得ていないが、放射光ラベルATPを用いたCry1に対するリン酸化アッセイ系を立ち上げており、概ね計画通りの進行度合いであると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
各種リン酸化変異の影響を定量的に調べることに成功したことを受け、平成26年度はその上流と下流を明らかにする。まず、Cry1をリン酸化する責任酵素を同定する。概日時計周期長に顕著に影響を与えることが知られているCKIを中心として、CKIによるCry1のリン酸化およびそのサイトを特定する。また、同様に概日時計周期長に顕著に影響を与える薬物(当研究室で同定・報告している)を用いて、これら薬物によってCry1のリン酸化状態が変化するかを検証する。また、下流についてはCry1の安定性を制御することが知られているプロテアソームタンパク質であるFbxl3に対して、見出したリン酸化サイトがその基質認識に重要であるかを、免疫沈降法を中心とした解析により検討する。これらの解析によって、Cry1の安定性を制御するリン酸化酵素、リン酸化サイト、その下流での相互作用変化を決定する。 概日周期特異的なCry1 分解活性の増減と概日時計の関係については、概日周期に依存したCry1 分解活性と恒常的な分解活性のどちらが概日周期長を変化させるのかは明らかでない。概日周期に依存したCry1 分解を誘導するために、TIR1 そのものを概日周期依存的プロモーター下流で誘導し、概日周期依存的な分解誘導系を構築する。本研究室ではプロモーターの組み合わせにより様々な位相で転写を誘導する一連のコンストラクトを有しており、これを用いてTIR1 を概日周期依存的に発現させる。概日周期依存的にCry1 の分解を誘導し、概日振動の周期と振幅を測定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度は、購入予定であったCO2インキュベーター(70万円)の導入を見送り、既存のCO2インキュベーターを使用した。これは、研究室移転に伴い当初予定していたよりもラボ全体でのインキュベーター稼働率が一時的に下がり、今年度の本計画の遂行に十分なスペースが確保できたことによる。また、当初は質量分析計のイオン化部(ナノスプレーチップおよびカラム)を購入する予定であったが、条件検討の容易さを鑑みてキャピラリーとビーズから自作することにした。これに伴って、消耗品費を節約できた。一方、初年度ではあるが本計画の成果を外部発表する機会を得たことで、当初予定していた額よりも旅費の使用額が増えている。これらの事情の総和として次年度使用額が生じた。なお、これにより本計画の遂行への影響はない。 上述したCO2インキュベーターを本年度導入する計画である。これは、今年度の成果により予想を上回る数の興味深い性質(主には概日周期長の変化)を示すCry1変異体を見出すことに成功したため、以降の研究をそれら全ての変異体について並行して進めるために必要な細胞培養スペースを確保するためである。
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Research Products
(6 results)