2013 Fiscal Year Research-status Report
マクロファージの炎症促進/抑制に伴う、Nrf2転写因子による状況依存的な転写制御
Project/Area Number |
25840001
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小林 枝里 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70634971)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | Nrf2 / マクロファージ / 状況特異的 |
Research Abstract |
環境ストレス応答の中心因子であるNrf2転写因子は、骨髄球で欠損すると炎症の重症化を引き起こすことが知られている。本研究の目的は、炎症促進時/抑制時のマクロファージに特異的なNrf2標的遺伝子を探索し、Nrf2による炎症制御メカニズムを明らかにすることである。Nrf2標的遺伝子同定のため、マウス骨髄細胞をM-CSF存在下で培養して得た骨髄由来マクロファージ、骨髄由来マクロファージをLPSおよびIFNγで刺激した炎症促進型(M1)マクロファージ、もしくは骨髄由来マクロファージをIL-4で刺激した炎症抑制型(M2)マクロファージを用いてマイクロアレイおよびChIP-seq解析を行った。Nrf2は環境ストレスの非存在下では恒常的に分解され核内に少量しか存在しないため、Nrf2の分解に必要なKeap1タンパク質の骨髄球特異的ノックアウトマウス(Nrf2活性化マウス)からマクロファージを調製し、野生型マウス由来のマクロファージと遺伝子発現を比較することで、Nrf2活性化によって発現変化する遺伝子群を同定した。マイクロアレイ解析の結果をこれまでに発表されている肝臓由来細胞株のマイクロアレイデータと比較したところ、Nrf2活性化によってマクロファージ特異的に発現が上昇する遺伝子群が見いだされた。また、野生型およびNrf2活性化型マクロファージで遺伝子発現に差が見られる遺伝子は、M1マクロファージで特に多いことが明らかになった。特にEdnrb遺伝子やUnc5b遺伝子については、野生型マクロファージではM1刺激に従って発現が誘導されるが、Nrf2活性化によってM1特異的な発現誘導が抑制された。抗Nrf2抗体を用いたNrf2活性化マウス由来マクロファージのChIP-seqでもこれらの遺伝子近傍へのNrf2結合が認められ、EdnrbやUnc5bがNrf2の直接の標的遺伝子であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成25年度に予定していたマイクロアレイ解析およびNrf2抗体を用いたChIP-seq解析はすでに終了し、炎症促進型のM1マクロファージに特異的なNrf2標的遺伝子群を同定することができた。骨髄球におけるNrf2活性化は様々な炎症病態を改善させることが知られているが、その一方でNrf2がApoEノックアウトマウスの動脈硬化を悪化させることも報告されている。本研究で見いだされたM1マクロファージ特異的なNrf2標的遺伝子の中には動脈硬化との関連が報告されているものもあり、Nrf2による動脈硬化憎悪のメカニズムに関与している可能性がある。 平成26年度には、Nrf2結合部位の近傍に結合する因子をDNase-seqによって特定したのち、Nrf2と協調して遺伝子発現を制御する因子をChIP-seq等によって検討する計画であった。しかし、これまでに得られたNrf2結合部位の情報をデータベース上に公開されているChIP-seqデータと照らし合わせたところ、M1マクロファージで活性化することが知られている転写因子や、Nrf2と結合して転写活性化に働くCBP/p300などが、Nrf2標的遺伝子の近傍に結合していることが示唆された。現在、これらの因子に対するChIPの準備を進めており、近日中にこれらの転写因子とNrf2のゲノム上への局在を検討する。データベース上の情報を利用したことによって、Nrf2と協調して働く因子の検討を速やかに始めることができるので、計画は当初の予定よりも早く進展する見込みである
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの解析によって、炎症状態特異的なNrf2による遺伝子発現制御を見いだしたので、今後はこの状況特異的な発現制御を可能にする分子メカニズムを検討する。 まず、炎症状態特異的にNrf2結合部位周辺でのヒストン修飾状況や他の転写因子の共局在が変化し、Nrf2標的遺伝子の発現を変化させる可能性について解析する。データベース上の情報からNrf2と協調作用する転写因子が予測されているので、まずこれらの因子についてChIP解析を行い、刺激開始からの時系列に沿ったゲノム上への局在変化を解析する。また、M1刺激に伴うNrf2結合部位周辺でのヒストン修飾状況の変化についてもChIP解析によって検討する。 また、炎症状態特異的にNrf2と転写共役因子との相互作用が変化する可能性について検討する目的で、Nrf2結合部位へのCBP/p300の共局在の様子をChIPによって検討する。炎症状態特異的にNrf2とCBP/p300のゲノム上への共局在が変化した場合、それがNrf2を含む転写活性化複合体の構成因子の変化によるものか、Nrf2-CBP/p300複合体のゲノム上へのリクルートの変化によるものかを検討するため、Nrf2およびCBP/p300の共免疫沈降を行う。また、BRG1など他のNrf2結合因子についても同様の解析を行う。 これらの解析によって、炎症促進型マクロファージ特異的なNrf2による発現制御のメカニズムが明らかになることが期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
Nrf2抗体を用いたChIPの条件検討が予定よりもスムーズに進んだために抗体の使用量が少量ですみ、経費の節減につながった。平成25年度に得られた結果とデータベース上のChIP-seqデータの解析から、Nrf2と協調して転写を制御すると思われる因子の候補が得られている。これらの因子がどのようにして炎症状態特異的Nrf2標的遺伝子の発現に関与するのかを詳細に解析するため、平成26年度にChIP用の抗体などを購入する費用を十分に確保する必要があり、平成25年度の未使用分を平成26年度に使用することとした。 炎症状態特異的なNrf2標的遺伝子の近傍に結合する転写因子や、Nrf2と結合することが報告されている転写活性化因子のChIPおよび共免疫沈降を行うため、これらの因子に対する抗体を購入する。Nrf2との協調制御が示唆された転写因子には炎症を誘導する刺激が与えられてからの経過時間が重要なものもあるので、炎症誘導刺激からの時系列に沿ったタイムコース解析が必要になる見込みである。そのため、当初の計画よりも多量の抗体を購入する予定である。
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