2013 Fiscal Year Research-status Report
クロマチン制御を介した神経幹細胞の運命転換メカニズムの解明
Project/Area Number |
25840003
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岸 雄介 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (00645236)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 神経幹細胞 / クロマチン / HMGAタンパク質群 |
Research Abstract |
HMGAタンパク質群による神経幹細胞のニューロン分化能賦与メカニズムについて、計画の通りHMGA2のChIP-seqを行い、HMGA2がどういったゲノム領域に結合しているのか、という観点から検討を行った。その結果、ポリコーム群タンパク質(PcG)との関係が明らかになりつつある。PcGは、抑制性のヒストン修飾であるH3K27me3を介して遺伝子の転写を抑制するクロマチン制御因子である。これまでに我々はPcGは神経幹細胞がニューロン産生期を終えるときに、ニューロン関連遺伝子群の転写を抑制することにより、その運命転換を促進することを示してきた(Hirabayashi, Neuron, 2009)。HMGA2 ChIP-seqにより、HMGA2はH3K27me3とは排反にゲノム領域に結合することがわかった。また、HMGA2はPcG標的遺伝子座においてH3K27me3修飾を減少させるように働き、そのことがPcG標的遺伝子がPcGによって抑制されることを防いでいることが明らかとなった。よって、HMGAタンパク質群による神経幹細胞のニューロン分化能賦与メカニズムの一部は、PcGが標的とするニューロン分化関連遺伝子の制御によることであることがわかった。 また、HMGAタンパク質群の下流遺伝子についても重要な下流遺伝子としてIgf2bp2を見出した(Fujii, Genes Cells, 2013)。RNA結合タンパク質であるIgf2bp2が、HMGA2の下流で発現が制御されていること、神経幹細胞のニューロン分化能を促進することを明らかとした。これらのことから、HMGAタンパク質群による神経幹細胞のニューロン分化能賦与メカニズムの一部として、Igf2bp2の発現促進が重要な役割を果たしていることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの研究により、HMGAタンパク質群による神経系前駆細胞のニューロン分化能賦与メカニズムが次々と明らかとなった。その1つはPcGタンパク質群の活性制御である。PcGは、様々な幹細胞やがん細胞などで重要な働きを担っていることがわかっている非常に重要なクロマチン因子である。しかし、その活性がどのように制御されているかについては、未だ明らかとなっていない。本研究においてその制御因子の1つとしてHMGAタンパク質群が見つかったことはこの分野における非常に重要な知見となる。特に、HMGA2 ChIP-seqの結果から、HMGA2がH3K27me3と排反に結合することは明らかであり、少なくとも神経幹細胞にいてHMGAタンパク質群がPcG制御因子として主要な働きを担っていることが示唆された。 さらに、下流因子としてもIgf2bp2を明らかとした。Igf2bp2の神経幹細胞における役割はこれまで全くわかっていなかったが、Igf2bp2の過剰発現では神経幹細胞のニューロン分化能が劇的に促進される結果はIgf2bp2が神経幹細胞のニューロン分化能を制御する主要な因子の1つであることを示唆している。 上記のように、HMGAタンパク質群は様々な経路を介して神経幹細胞のニューロン分化能を制御していることがわかった。その下流には様々なニューロン分化関連遺伝子が含まれており、HMGAタンパク質群が神経幹細胞のニューロン分化能を制御する上流に位置する因子である可能性があり、当初の計画以上に研究が進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、HMGAタンパク質群がPcGの活性を制御することで神経幹細胞のニューロン分化能を制御する可能性が示唆された。しかしながら、どのようにしてPcGの活性を制御しているのかは不明である。PcGは、凝集したクロマチン領域ではH3K27me3の修飾活性が高いが、脱凝集した領域では低いことがわかっている。HMGAタンパク質群の分子機能として、リンカーヒストンH1と拮抗してクロマチンを脱凝集させることが知られていることから、HMGAタンパク質群がPcG標的遺伝子座上においてクロマチンを脱凝集させることがPcGの活性制御に重要なのではないかと考えて、クロマチンの凝集状態を調べる予定である。 また、昨年度までにHMGA2の働きを明らかにしてきたが、今年度はHMGA1の働きについても検討したい。なぜなら、HMGA1もHMGA2と同様に神経幹細胞にニューロン分化能を賦与することが明らかとなっているからである。特に、HMGA2は神経幹細胞の発生時期依存的に急激に発現が減少するのに対し、HMGA1はその減少が緩やかである。よって、発生時期のタイミングによってPcGの標的が変化するメカニズムとして、HMGA1とHMGA2の違いがある可能性があり、HMGA1 ChIP-seqやHMGA1のノックダウン実験などによって明らかにしたい。 また、HMGAタンパク質群の下流因子の候補として、NM_019969.3も明らかにしている。この因子は転写因子であることから、その標的遺伝子や神経幹細胞における働きなどを詳細に検討したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は、マウス小屋の温度制御装置の不具合によりマウスの交配がうまく進まなかった。また、研究室が分子細胞生物学研究所から薬学系研究科へ異動となり、その準備や片付けでほぼ3ヶ月程度実験をすることができなかった。 現在、薬学系研究科でのセットアップは完了し、マウスの交配も順調にできていることから、現在は順調に実験を行っている。 当初の計画通り、HMGAタンパク質群がクロマチン構造にどういった影響を与えるかを検討する。特に、昨年度の新たな知見によりPcGとHMGAタンパク質群の相互作用が明らかとなったため、1) HMGAタンパク質群がPcGの活性にどういった影響を与えるのか、2) HMGAタンパク質群がPcG標的遺伝子座のクロマチン構造をどう変換しているのか、について検討を行う。どちらもマウスの購入、遺伝子導入試薬の購入が必要となり、さらに1)についてはH3K27me3 ChIP-seqを行う必要があり、また2)についてはFAIREというクロマチン構造を検討する実験系を立ち上げる予定である。 また、下流因子候補NM_019969.3の働きについても検討を行う予定であり、こちらでもマウスの購入や遺伝子導入試薬の購入などに本予算を充てる予定である。
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Research Products
(6 results)