2014 Fiscal Year Research-status Report
クロマチン制御を介した神経幹細胞の運命転換メカニズムの解明
Project/Area Number |
25840003
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岸 雄介 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (00645236)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | クロマチン / 神経幹細胞 / HMGA2 / Igf2bp2 / Plag1 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まずHMGA2 ChIPによりHMGA2が結合する領域を同定した。In vivoの神経幹細胞を、神経幹細胞で特異的に活性化するNestin遺伝子のエンハンサーの下流で不安定化したVenusを発現する遺伝子改変マウスを用いたFACSソートにより採取し、HMGA2 ChIP-seqを行った。その結果、これまでに注目していた下流遺伝子候補であるIgf2bp2(NM_183029.2)とPlag1(NM_019969.3)遺伝子座に結合していることがわかった。このことは、Igf2pb2, Plag1がHMGA2によって制御されることを示唆している。 Igf2pb2が神経幹細胞において重要な役割を果たすことはすでに明らかにし、発表した(Fujii et al., Genes to Cells, 2013)。よって次にPlag1の神経幹細胞における機能解析を行った。Plag1は、転写因子として働くがん遺伝子として知られているものの、生理的な条件である発生などでの役割はほとんどわかっていない。まず、HMGA2によってPlag1の発現が制御されていることを、HMGA2の過剰発現、ノックダウンにより確認した。そして、Plag1を神経幹細胞に過剰発現してその表現系を観察したところ、非常に興味深いことに神経幹細胞のニューロン分化能が促進された。逆に、Plag1をノックダウンすると神経幹細胞のニューロン分化能が抑制されることがわかった。これらの結果は、Plag1がHMGA2の下流で神経幹細胞のニューロン分化能を促進する重要な遺伝子であることを示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の成果により、HMGA2の下流遺伝子を探索することでIgf2bp2とPlag1という神経幹細胞のニューロン分化能に重要な新規因子を同定することに成功した。HMGA2は、多くの遺伝子を制御する転写因子であることから、HMGA2の下流を探索することで神経幹細胞の分化能や未分化性維持に重要な因子を新たに同定できることがわかり、今後もHMGA2の作用機序を明らかにすることが重要であることがわかった。 HMGA2-Igf2bp2経路は様々な幹細胞の分化能制御、未分化制維持に重要なことが我々の報告ののちに明らかになってきており、神経幹細胞のみならず様々な幹細胞で重要な経路であることが示されている。本成果は、HMGA2-Igf2bp2経路の重要性を示すさきがけとなる成果であり、今後どのようにしてHMGA2-Igf2bp2が幹細胞の維持を実現しているのか、そのメカニズムを明らかにすることが重要である。 また、Plag1はがん遺伝子としての役割はいくらか明らかになっているものの、生理条件下での機能はほとんどわかっていない。本研究の成果はPlag1の新機能を明らかにしただけでなく、今後のメカニズムの解明によりがん細胞におけるPlag1の機能も明らかにできる可能性がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、まずはIgf2bp2, Plag1がどのようにして神経幹細胞に重要なのか、そのメカニズムを明らかにすることが重要である。Igf2bp2はRNA結合タンパク質で、mRNAの安定性や翻訳に重要な役割をはたす。まずはIgf2bp2が結合するmRNAをCLIP-seqなどによって同定し、それらのmRNAの量や翻訳にIgf2bp2がどういった役割を果たすかを明らかにする。 Plag1は転写因子であることから、ChIPやマイクロアレイ解析などを通じて標的遺伝子を明らかにする。 さらに、今回わかった重要なことはHMGA2の下流を探索することで神経幹細胞を制御する新規因子を同定することができる、という事実である。以前行ったマイクロアレイは、in vitroでの過剰発現実験だったが、現在はin vivoでもHMGA2の過剰発現、ノックダウン実験が可能となっている。また、本研究の成果によりHMGA2が結合する遺伝子座も明らかとなっている。これらの実験を組み合わせることにより、HMGA2が標的とする神経幹細胞制御因子を新たに同定することを目指す。それを通じて、神経幹細胞のニューロン分化能や未分化性維持を制御する機構の全体像を明らかにすることを目指す。
|
Causes of Carryover |
平成26年10月と、平成27年1月の2回、クロマチン構造変化の重要性を検証するためにNestin-d4Venusマウス(遺伝子改変マウス)を交配していたが、フィルターの不具合により飼育ラックの電源が落ち、マウスが一時呼吸困難となり死亡、あるいは不健康状態となり交配がかからなくなった。そのため、神経幹細胞におけるクロマチン構造を検討するための神経幹細胞の回収ができず、未使用額が発生してしまった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在Nestin-d4Venusマウスを再交配しており、繁殖後に神経幹細胞を回収し、クロマチン構造を検討する。具体的には、DNaseI感受性実験後、次世代シークエンサーを用いた解析を行う予定である。マウス繁殖には動物購入費と維持費でおよそ20万円、次世代シークエンサーは1サンプルあたり消耗品に40万円程度かかり、5サンプル程度を考えているため計220万円の繰り越しを検討している。
|
Research Products
(7 results)