2013 Fiscal Year Research-status Report
グリーンヒドラ―クロレラ共生システムにおける分子相互作用・ゲノム間相互作用の解析
Project/Area Number |
25840132
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University |
Principal Investigator |
濱田 麻友子 沖縄科学技術大学院大学, マリンゲノミックスユニット, 研究員 (40378584)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 共生 / 進化 / ゲノム / ヒドラ / クロレラ |
Research Abstract |
本研究ではグリーンヒドラHydra viridissimaを用いて、動物―藻類共生システムにおける相互作用の実態を明らかにすることを目指している。グリーンヒドラは系統によって異なる特定のクロレラを共生させていることが知られており、共進化によって互いに適応しているものと考えられる。 これまでに、共生において重要な役割を持ち、かつ種特異的な適応関係を反映している遺伝子を同定するため、共生が成立している状態とクロレラを除去した状態、さらに別種のクロレラを人為的に共生させた状態のグリーンヒドラのトランスクリプトームを比較することで約20の候補遺伝子を得ることができた。興味深いことに、明暗実験と光合成阻害実験により、これらの遺伝子の大部分はクロレラの光合成と相関を示すことがわかった。また、この中には植物の窒素代謝に重要であることが知られているグルタミン合成酵素遺伝子が含まれていた。共生クロレラは大量の糖類を分泌し、ヒドラに供給しているという報告があり、本研究で得た候補遺伝子はクロレラの光合成によって合成・分泌された糖類に応答し、発現変化した可能性が考えられる。これを確かめるため、糖類を加えた培養液中でヒドラを飼育したところ、グルタミン合成酵素を含むいくつかの候補遺伝子で発現上昇が見られた。 これらのことから、クロレラが光合成により糖類を分泌してクロレラに与え、ヒドラはこれに応答してグルタミンを合成し、窒素源としてクロレラに与えるという相互作用のモデルが考えられる。このことは栄養面での依存関係においてヒドラとクロレラが高度に適応し合っていることを示唆しており、またこの相互作用は遺伝子レベルで調節されていると考えられる。以上のように、動物―藻類共生システムの本質と考えられる光合成と栄養面でのやりとりに関わる過程において、分子相互作用のモデルを遺伝子発現の面から具体的に示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、(1)グリーンヒドラとクロレラのゲノム解析を行い、この共生システムの進化の過程においてゲノム中でおこった遺伝子の変化を明らかにすること、(2)共生活動の中でも特にクロレラの光合成に関わるヒドラ遺伝子を同定するために、クロレラの有無、明暗条件、光合成阻害などで発現変化するヒドラ遺伝子のトランスクリプトーム解析を行うこと、(3)以上の遺伝子について、その生体内での発現・機能を明らかにすることにより、ヒドラ―クロレラ間相互作用の分子メカニズムを具体的に理解することである。当初の計画と平成25年度と平成26年度の予定が前後した実験もあるが、平成25年度はこれらの計画のうち(2)を終えることができ、さらに(1)と(3)の準備を整えることができた。具体的には、マイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析によって系統特異的な共生関係が成立している状態において発現変化を示すヒドラ遺伝子を得ることができ、特にこれらがクロレラの光合成やそれによる糖分泌と関連する可能性が大きいことを示すことができた。また、in situ hybridizationによる発現パターン解析を行った結果、これらの遺伝子の多くがクロレラとの共生が見られる内胚葉細胞に発現していることがわかった。以上の結果から、ヒドラークロレラ間での遺伝子レベルの相互的調節関係が明らになり、分子的相互作用の実態に迫ることができたと言える。また、このような相互作用のモデルを元に、現在進行中であるグリーンヒドラとクロレラのゲノムシークエンス解析のターゲットを明確にすることができ、平成26年度は効率的なゲノムシークエンス解析ができるものと考えられる。さらに、候補遺伝子の機能解析のためのコンストラクト作成など、機能解析の準備も整えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に明らかになったヒドラ―クロレラ間相互作用の分子メカニズムをさらに詳細かつ具体的に理解するため、平成26年度はマイクロアレイ解析によって得られた候補遺伝子についてsiRNAによるノックダウン実験を行い、クロレラの状態を観察することで、この共生システムでの機能を明らかする予定である。 また、グリーンヒドラのゲノム解析と、共生クロレラのゲノム、トランスクリプトーム解析を行い、この共生システムの進化の過程においてゲノム中でおこった種特異的な遺伝子の変化(遺伝子重複、水平伝播、遺伝子獲得・欠失など)を明らかにする。クロレラのゲノム解析においては、特に平成25年度に得られたヒドラ―クロレラ間相互作用のモデルを元に、共生クロレラで特異的に合成・分泌が盛んであることが報告されている糖類の合成経路に関わる遺伝子群や、グリーンヒドラからの供給に依存している可能性のあるグルタミンの合成経路に関わる遺伝子に注目し、他のクロレラの遺伝子と比較することで共生クロレラに特徴的な性質はないかどうかを調べる。また、グリーンヒドラのゲノム解析においては、以上のような代謝系の遺伝子群に加えて、クロレラやバクテリアから水平伝播によって得られたと思われる遺伝子に注目し、他種の非共生性のヒドラのゲノムと比較・解析することにより、共生関係におけるゲノム進化の面での相互作用を明らかにしたいと考えている。 以上の解析により、分子的相互作用とゲノム相互作用という2つの側面から動物―藻類共生システムの理解が進むと期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年10月まで、私は共同研究先のドイツ・キール大学・Thomas C. G Boschラボに滞在し、その後、所属先である沖縄科学技術大学院大学(OIST)に戻った。キール大学ではヒドラを用いた発現・機能解析の手法が確立している一方、OISTは次世代シークエンサーの技術や設備が非常に優れている。研究計画申請の当初、平成25年度はシークエンス解析を行い、平成26年度は発現・機能解析などの分子生物学実験を行う予定であったが、その後、ドイツにおける滞在予定とそれぞれの設備環境面での利点を考えて、キール大学において先にマイクロアレイやその他分子生物学実験を行い、OISTに戻った10月以降にIlllumina Miseq, Hiseqを用いたゲノムシークエンシングを行う方が効率的であると判断した。そのため、比較的高額であるシークエンス用試薬の一部を平成25年度には購入せず、翌年度分として持ち越すこととなった。 平成26年度はシークエンス用試薬であるIllumina 用サンプル調整キット(約50万円)、Miseqシークエンス用キット4ラン分(Miseq Reagent Kit v3 600 cycles 約30万円×4)に加え、一般試薬・消耗品として、分子生物学実験用の試薬、実験器具用のガラス製品、紙・プラスチック製品、データ保存用のディスクの購入を計画している(約50万円)。また、国内旅費として年2回程度の国内学会参加のための費用(約5万円×2)と、海外旅費として年1回の共同研究者との打ち合わせ・実験のためのドイツ渡航費用(約30万円)を計画している。
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Research Products
(1 results)