2013 Fiscal Year Research-status Report
自然雑種オオササエビモにおける交配の方向性は生理・生態的特性の違いに相関するか?
Project/Area Number |
25840156
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
飯田 聡子 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (60397817)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 自然雑種 / 水生植物 / 高温耐性 / 馴化 / クロロフィル / 母系効果 |
Research Abstract |
琵琶湖に多産する水生植物オオササエビモは,ヒロハノエビモとササバモ間に生じた自然雑種である.本研究ではオオササエビモを解析し,高温耐性が対照的な両親種からどのように形質を受け継いでいるかを検討した.本雑種では,交配の方向性による母系効果の存在が予想されていたため,特に高温耐性における母系効果を検証した.人工的に交配し作成した雑種と琵琶湖にて採集した自然雑種の高温耐性を測定した結果,人工雑種と自然雑種にはともに高温耐性の高い個体と低い個体が存在した.人工雑種では,高温耐性は母系との対応がみられなかったが,自然雑種では,ササバモを母親とする個体が多く,それらはみな高温耐性が高いものであった.また少数存在するヒロハノエビモを母親とする個体では,高温耐性が高いものと低いものが存在した.これらのことから,野外条件ではササバモを母親とし高温耐性をもたない雑種が淘汰されている可能性が示唆された。 本研究は高温耐性とあわせて,熱ショック転写因子と葉緑体に局在する低分子熱ショックタンパク質の熱応答についても解析を行った.その結果,両親で発現が確認されている遺伝子(HSFA2 とHSP21)はすべての雑種で熱誘導された.高温耐性の高い個体はどちらの母親のタイプでも,ササバモでみられた長期熱ストレスにおける熱ショック応答の維持が起こっており,これらの遺伝子の熱応答に関しては,母系効果の存在は認められなかった. 自然雑種は環境適応能をもつ種の分化に重要であるが,従来,初期過程の解析は初期の雑種が致死あるいは不稔であるために研究がほとんど行われていない.水生植物の自然雑種オオササエビモは,稔性のある種子や花粉はできないが,切れ藻で旺盛に栄養繁殖し,雑種から種への分化の初期過程を研究することができる.本研究は,雑種形成を経た種分化の初期過程において,母系効果と高温ストレスの役割を検討した点で意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は琵琶湖に生育する自然雑種オオササエビモにおいて,母系の異なる個体群間での環境適応性の違いを主に生理生態学的特性の観点から検証することを目的としている.平成25年度に行った高温耐性の解析から,自然雑種では母系が高温耐性と関わる傾向が明らかになった.当初の計画では,高温耐性以外の特性として,平成26年度に,光合成の光応答やABA処理による気孔形成の誘導能を検討する予定であったが,これらについては,既にある程度解析がすすんでおり,関わりが低いことが明らかになりつつある.このように現時点で,予定していた研究計画の大部分は遂行されているが,高温耐性と母系との相関は完全ではなくむしろオーバーラップが大きいことから,より母系効果との関わりがより密接な形質を解析していく必要が生じている.オオササエビモの両親種,ヒロハノエビモとササバモにおいて,高温応答の差異と連関する転写因子HSFA2は,高温耐性だけでなく強光ストレス応答においても鍵となる因子であることが,他の植物の研究で報告されている.またオオササエビモの両親種間では,同じく強光ストレスに関与するアブシシン酸の生合成を律速する酵素のストレス応答にも差異があることも明らかになってきた.これらのことから,平成26年度に,強光ストレスへの応答を解析すれば,母系の異なる雑種間での違いが明確になり,本研究の目的を達成できる可能性が高いと考えている.以上のことから,現時点では本研究の研究達成度を「おおむね順調に進展している」と判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
オオササエビモの高温耐性に着目した平成25年度の研究では,母系の異なる個体間では,高温耐性も異なる傾向があった.しかし同時に,母系と高温耐性との相関は完全ではなく,むしろオーバーラップしていることも明らかになった.自然界では,高温ストレスが単独で作用することは稀で,普通は強光ストレスも同時に作用している.そこで,強光ストレスに対して母系の異なる個体がどのように応答するのかを解析することで,オオササエビモにおける母系効果のさらなる検証を行う.具体的には,光条件を変化させ母系が異なる個体について培養実験を行い,生長や光傷害の程度を評価する.なお強光ストレスへの応答性は,これまでオオササエビモの両親種間での比較解析を行っていないことから,本実験では両親種を含めた解析を行う. オオササエビモは琵琶湖では幅広い水深に分布している.一方,温度や光といった環境条件は水深に沿って段階的に変化する.従って,高温耐性における母系効果はオオササエビモの野外での分布にも影響していると予想される.これまでオオササエビモの野外での採集調査は,比較的採集が容易な水深1.5mまでの水域が主であり,2メートル以深の個体についての情報が不足している.そこで今年度は,調査船やスキューバを用いる等,2メートル以深の個体を調査する体制を整える.それにより深水域の個体の特性を明らかにし,それらを含めて母系が異なる個体間での環境適応性の違いについて検証を行う予定である. また平成25年度に行ったオオササエビモの高温耐性に関する研究は,母系効果の背景にある生理的特性と環境要因に関する新規性の高い研究であることから,論文として公表を行う.また本年度計画している強光ストレスの解析や深水域に分布する個体の解析については,結果が得られた段階で随時,学会や投稿論文等で成果を発表する.
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