2013 Fiscal Year Research-status Report
多年生雑草における根系の放射性セシウム吸収および蓄積メカニズムの解明
Project/Area Number |
25850012
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
好野 奈美子 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター農業放射線研究センター, 任期付研究員 (20568547)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 放射性物質 |
Research Abstract |
放射性物質の除染において雑草の除去は大きな役割を果たすにもかかわらず、雑草の、特に多年性雑草の地下茎および根(以下、根系)の放射性物質はほとんど調べられていない。放射性物質を多く含む土壌表層からほとんど含まない深層まで存在する根系における吸収、蓄積のメカニズムを明らかにすることで、除染対策や作物の移行吸収抑制に関する知見を得る。本年度は、根系の各層における放射性セシウムの分布状況を明らかにするため、畑圃場に自生している浅根性のヨモギと深根性のスギナについて掘り起こし調査を実施した。 農研機構東北農業研究センター福島研究拠点内の作付していない枠圃場において、2013年11月にヨモギ、スギナを含む畑土壌をそれぞれ10cm深ごとの層別に地下50 cm 深まで掘り出し、土壌の放射性セシウム、交換態カリウムおよび根系の放射性セシウムを分析した。 まず、表層である0-10cm深のスギナの根系はヨモギより現存量が少ないにもかかわらず、放射性セシウムの濃度が高かった。ただし、スギナを含む土壌自体がヨモギの土壌よりも放射性セシウムの濃度が高かったため、ヨモギとスギナの蓄積能力に差があるとはいえなかった。 次に、地下上層と下層との比較では、ヨモギは10cm深より下層の根系が少なく放射性セシウムを測定できなかったが、スギナの根系は地下10-50 cm深の各層とも地下0-10 cm深と同等以上の現存量があった。スギナの根系および周囲の土壌ともに表層ほど放射性セシウム濃度が高く、下層ほど濃度が低くなったが、根系の方が土壌に比べて濃度の低下が緩やかであった。一方で、セシウムの吸収を抑制するとされるカリウムは下層の土壌でも十分な濃度があったことから、下層の根系における比較的に高い放射性セシウム濃度は周囲の土壌から吸収したものではなく、上層の根系が吸収した放射性セシウムを下層に移行させていると推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度から所属を変更したため、使用できる機器や圃場などに変更が生じた。また、変更先の所属機関における研究員のアドバイスや研究成果をもとに、根系による放射性セシウムの吸収、蓄積状況を解明するという目的を遂行する上では、調査方法や分析項目を変更するほうが効率的であると判断した。具体的には、根系に安定セシウム(Cs133)を吸収させる実験系を構築するのではなく自然に降下した放射性セシウム(Cs137)を含む土壌を用いること、セシウムの吸収に大きく関与する土壌中のカリウムも分析を行うこと、などである。そのため、今年度は自生する雑草の掘り取り調査によって根系内の放射性セシウム確認するのみになったが、詳細な層別の掘り取りや分析によって蓄積や移行の状況を明らかにすることができたため、概ね目的にそって順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の結果をもとに、次年度は以下の点を明らかにする。 ひとつめは、セシウムとカリウムが上層と下層に偏っている土壌において、根系による吸収、蓄積や地上部への移行の程度を明らかにする。具体的には、放射性セシウム濃度が高い土壌と低い土壌を層別に詰め、硫酸カリを添加した根箱を用いて栽培実験を行う。 ふたつめは、根系の中でセシウム以外の主要な元素がどのような分布をしているかを層別に明らかにする。これにより、多年生雑草の根系におけるセシウムの蓄積や移行は他の元素に対して大きいのか、既往知見とも併せて比較を行う。 さらに、分類上では雑草としては珍しいシダ植物のスギナで得られた移行の様相は、ほかの雑草や作物においても当てはまるのかについて、主な科であるイネ科、キク科やマメ科などによる掘りとりなどの調査も検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
応募時は機器を購入予定だったが、今年度に所属機関を変更したため、変更先の機関では機器を購入する必要がなくなった。しかし、根系の掘り出し、仕分け、分析準備等を行う人員が大幅に不足することになったため契約職員の賃金を計上する必要が生じた。 今年度に引き続き、根系の掘り出し、仕分け、分析準備などを行う契約職員の賃金および各種機器の消耗品に使用する。
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