2013 Fiscal Year Research-status Report
ユビキノンが鍵因子となるミトコンドリア膜タンパク質の分子機構解明
Project/Area Number |
25850081
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村井 正俊 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (80543925)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ユビキノン / 光親和性標識 / Click Chemistry / ユビキノン結合性タンパク質 / ミトコンドリア / Coq10 |
Research Abstract |
ユビキノンの主な生理的役割は、呼吸鎖酵素系において電子伝達担体としてはたらくことである。一方、ユビキノンを“活性因子”として一定の生理活性を発揮するミトコンドリア膜タンパク質の存在が近年示唆されている。応募者は合成プローブを用いた独自の実験系を確立し、「ユビキノンの輸送」と「エネルギー代謝と細胞死の制御」に関与することが示唆されている膜タンパク質が、実際にユビキノンに対して高い結合親和性を有することを最近見出した。本研究では、ユビキノンの役割に焦点を当てて、これら2つの膜タンパク質の分子機構を解明することを目的とした。 平成25年度はCOQ10と呼ばれるユビキノン結合性タンパク質に関する研究を進めた。ミトコンドリア内膜上に局在する約20 kDaのタンパク質であるCoq10は、ユビキノン生合成には直接的に関与しないものの、生合成されたユビキノンに“シャペロン的”に作用し、ミトコンドリア内膜中で円滑な電子伝達をサポートしているのではないかと考えられているが、その役割は依然として不明である。 申請者は、合成ユビキノンプローブを用いた光親和性標識実験を切り口に、ミトコンドリアにおけるCoq10の役割を明らかにすることを目的とした。ユビキノンのベンゾキノン環とイソプレン側鎖末端に、それぞれアジド基とアルキンを導入した化合物、UQ-1を合成した。本化合物は光親和性標識実験後に、クリックケミストリー([3+2]-環化付加反応)を利用してビオチンなどの任意の検出タグを導入することができる。分裂酵母由来のCoq10を発現させた大腸菌膜標品を、UQ-1によって光親和性標識し、クリックケミストリーによってビオチンタグを導入した。ウェスタンブロットやアビジン沈降、および精密質量分析によって標識後の膜標品の解析を進めた結果、UQ-1はCoq10に対して特異的に結合していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は上記の通り、合成ユビキノンプローブを用いた光親和性標識実験によって、ユビキノンがCoq10と特異的に結合することを明らかにした。さらに、プロテアーゼ限定分解によってCoq10のタンパク質化学解析を進め、その架橋領域をF39-K45(7アミノ酸残基)にまで絞り込むことに成功した。一方、本領域の保存されたアミノ酸をアラニン置換したCoq10変異体(F39A, P41A)を作成し、UQ-1による光親和性標識実験を行ったところ、野生型Coq10と比較して標識量は有意に減少した。この結果は、Coq10におけるユビキノンの結合部位が、上記の領域(F39-K45)に存在するという光親和性標識実験の傍証と言える。 Coq10はコレスレロールなどの疎水性分子の細胞内輸送に関与するSteroidgenic acute regulatory protein (STAR)-related lipid transfer(START)ドメインスーパーファミリーの一員である。今回明らかにしたユビキノン結合部位はHydrophobic tunnelの一部(α-ヘリックス側の空間の一部)を構成し、Coq10が他のSTARTドメインタンパク質と同様の仕組みで、ユビキノンを取り込んでいるものと考えられる。STARTドメインタンパク質の一つであるCoq10がユビキノンを結合することを明らかにしたのは本研究が初めてであり、その点でも研究は順調に推移していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者はUQ-1を用いて出芽酵母ミトコンドリアを光親和性標識したところ、VDAC(電位依存性アニオンチャネル)およびcyclophilin Dなどのタンパク質が、ユビキノンに対して親和性を示す可能性を見出した。複数のミトコンドリアタンパク質の超分子複合体であるPTPは、シトクロムcの漏出などのアポトーシス初期過程に深く関与すると考えられている。出芽酵母由来のミトコンドリアを実験材料として光親和性標識を実施し、PTP構成成分であると考えられているVDACおよびcyclophilin DのUQ結合部位を明らかにしたいと考えている。さらに、酵母UQ生合成欠損株(ΔCOQ2)からミトコンドリアを単離し、人工キノンで再構成することでPTP活性を評価する実験系を構築し、複合体形成にUQが必須の因子であるかどうかを検討したい。必須因子である場合には、キノン類縁体の構造活性相関により、PTPの開閉に要求されるUQの化学構造因子を決定することを通して、UQの役割を解明したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初は、有機合成に関係する試薬や分取HPLCのカラムなどの消耗品を購入する予定であったが、結果的にCoq10の生化学試験に多くの時間と物品費を費やすこととなった。 平成26年度は、生化学実験に加えてユビキノンプローブの改良も計画しているために、当初計上していた有機合成関係の試薬・消耗品も購入予定である。
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Research Products
(10 results)