2013 Fiscal Year Research-status Report
心材形成誘導系を用いた樹木独自の細胞死発現機構の解明
Project/Area Number |
25850121
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
半 智史 東京農工大学, 農学研究院, 助教 (40627709)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 細胞死 / 放射柔細胞 / 心材形成 / 核 / デンプン粒 / アガサレジノール / 遺伝子発現解析 / xylem cysteine peptidase |
Research Abstract |
本研究では、実験1:二次代謝を伴う細胞死誘導系を用いた放射柔細胞の細胞死過程の経時的変化の解析、および実験2:インタクトな放射柔細胞の細胞死過程の解析を行う。供試樹種は、スギや交雑ポプラなどを用いる。実験1では、人為的に放射柔細胞の細胞死を誘導できる実験系を用いて、放射柔細胞の細胞死過程における形態変化および遺伝子発現の変化を網羅的かつ経時的に解析する。実験2では、実験1で認められた特徴的な変化に着目し、樹幹内部のインタクトな放射柔細胞について放射方向や季節間での変化を解析することで、放射柔細胞の細胞死発現機構を理解する上で重要な形態変化および遺伝子発現変化の時間的・空間的情報を得る。 スギ放射柔細胞を用いた二次代謝を伴う細胞死の誘導実験系を用いて、細胞死過程における核およびデンプン粒の径時的変化について顕微鏡を用いて観察を行った。その結果、デンプン粒が誘導5日目から10日目にかけて急激に減少し、15日目から25日目にかけてデンプン粒は消失し、核の著しい形態変化が起こることが明らかになった。また、放射柔細胞の生体染色法を用いて、細胞内エステラーゼ活性の評価や細胞膜の健全性の評価を行った。その結果、細胞内エステラーゼ活性および細胞膜の健全性の喪失と核の著しい形態変化が同様のタイミングで起こることを明らかにした。さらに、スギの心材物質の一種であるアガサレジノールの定量について検討し、顕微鏡観察を行った組織とほぼ同じ領域の小さなサンプルから定量が可能であることが明らかになった。 また、インタクトなポプラ放射柔細胞を用いて、放射方向における細胞の生存率の変化および遺伝子発現の変化について解析を行い、管状要素のプログラム細胞死において自己分解に関わることが知られている酵素であるxylem cysteine peptidase発現量が辺材最内層において低いことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スギ放射柔細胞を用いた二次代謝を伴う細胞死の誘導実験系を用いて、細胞死過程における核およびデンプン粒の径時的変化を明らかにすることが出来た。また、放射柔細胞ではこれまで報告例があまりない生体染色法を用いて、細胞内エステラーゼ活性や細胞膜の健全性の喪失のタイミングを明らかにすることができた。さらに、スギの心材物質の一種であるアガサレジノールの定量について検討し、顕微鏡観察を行った組織とほぼ同じ領域の小さなサンプルから定量が可能であることが明らかにできた。加えて、インタクトなポプラ放射柔細胞を用いて、放射方向におけるxylem cysteine peptidase遺伝子の発現量の変化を明らかにできた。以上の成果より、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
スギなどの放射柔細胞を用いた二次代謝を伴う細胞死の誘導実験系を用いて、細胞死過程における細胞小器官の変化をより詳細に解析する。さらには、細胞齢の異なる放射柔細胞を用いて人為的に細胞死を誘導することで、細胞齢の違いによる応答性の違いと細胞死の準備段階がいつから始まるのかについて知見を得る。加えて、インタクトな放射柔細胞の細胞死過程について、細胞生物学的解析を進め、本実験系で得られている知見との比較を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度において、二次代謝を伴う放射柔細胞の細胞死誘導系における細胞小器官の径時的変化について概要を明らかにすることができた。次年度においては、より詳細な細胞生物学的解析を行うが、当初予定よりも多くの解析を予定している。したがって、当初予定よりも多くの研究費が必要であると判断した。 放射柔細胞の細胞死過程の径時的変化をより詳細に明らかにするための細胞生物学的解析を遂行するための費用に充てる。また、本研究の成果をまとめ、国際的な学術雑誌に論文を投稿することから、その掲載費用の支払いにも充てる予定である。
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