2014 Fiscal Year Research-status Report
エネルギー代謝が及ぼすストレス応答と骨格筋代謝とのネットワーク解明
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25850142
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
長阪 玲子 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 助教 (90444132)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ストレス応答 / 筋代謝 / エネルギー代謝 / 魚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
生育中の養殖魚の外部・内部環境が水揚げ後に商品となる骨格筋の質を左右することが分かりつつあるが,その詳細なメカニズムは明らかになっていない.本研究では生育中のエネルギー代謝がストレス応答に及ぼす影響と,骨格筋代謝への関与を明らかにすることを目的とした. 栄養状態の異なるゼブラフィッシュを用い,昨年度推定した筋細胞内タンパク質の分解に関与するプロテアーゼが分解対象とするタンパク質の同定を試みた.筋タンパク質の定量的ペプチドーム解析を行い,起源タンパク質の推定を行った.またPCA解析により摂食状態がタンパク質分解に及ぼす影響を明らかにした.その結果,分解断片から169種のタンパク質が同定された.飽食飼育のゼブラフィッシュ筋肉中では,筋肉の形成・維持,タンパク質の合成および細胞内のシグナル伝達に関与するタンパク質の分解が多く認められた.飽食時でも,筋組織タンパク質は合成だけでなく,オートファジーなどで定常的な分解が盛んに行われると推察された.さらに,代謝改変作用が確認されているオリザノールを投与したゼブラフィッシュを2週間飼育し,その後空気暴露によりストレスを負荷した.ストレスで上昇したコルチゾール量がオリザノール給餌により減少する傾向があった.オリザノール給餌は短期ストレスに対する緩和作用がある可能性を示唆した.また,オリザノールを投与したニジマスを3カ月飼育し,慢性的な飼育密度ストレスを負荷した.オリザノール投与により飼料効率の改善がみられた.また,通常飼料を給餌したストレス区でコルチゾール量の有意な減少が見られ,慢性ストレスは魚類においてHPA系の制御機構に影響を及ぼすことが示唆された.また,オリザノールを投与したストレス区でのコルチゾール量は非ストレス区と同レベルであったことから,オリザノール給餌により代謝が改変され,ストレス応答に影響を及ぼしたことが考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,昨年度推定したゼブラフィッシュ体内で働くプロテアーゼの対象タンパク質をペプチドーム解析により同定した.その結果,169種類のタンパク質が同定された.さらに,飽食飼育ではタンパク質の合成だけでなく,定常的な分解も盛んに行われていることが示唆された.さらに,餌によってエネルギー代謝を改変させ,ゼブラフィッシュにおいて短期ストレスへの影響を確認した.また,産業上有用魚種であるニジマスについて餌によってエネルギー代謝を変えることで慢性的ストレスに対するストレス応答の差異を検討した.代謝改変作用のあるオリザノールの投与によって生育中のエネルギー代謝が変化し,ストレスが緩和されることが明らかになった.飼料によるエネルギー代謝改変による筋代謝への影響については次年度に持ち越した.産休を取得したため年度途中までの成果であるが,中断までは予定通りの成果があったと判断し,おおむね順調に進展しているとの判断に至った.
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Strategy for Future Research Activity |
魚類においても生育中のエネルギー代謝によりストレス応答に変化を引き起こすことを明らかにしたが,これらの変化が骨格筋の状態を制御している可能性があることから,来年度以降は生育時における種々の生体応答,特にエネルギー代謝による骨格筋代謝への関与を明らかにすることを目的とする.具体的にはエネルギー代謝の違いがストレス応答に変化を及ぼすことが明らかになったことから,本年度同様の餌によるエネルギー代謝改変を行った飼育実験を行い,エネルギー代謝の異なる状態の供試魚を用いて,ストレス環境下でのIGF/PI3K/TOR経路関連因子のmRNA量やタンパク質発現量およびリン酸化レベルを測定する.また,致死後の骨格筋との関連をタンパク質分解酵素,骨格筋量調節因子について遺伝子レベル,タンパク質レベルで測定することにより明らかにする.また,エネルギー代謝の改変が骨格筋の同化・異化バランスに及ぼす影響を明らかにするため,これまでに推定した筋組織タンパク質の分解に関与したプロテアーゼや対象タンパク質の発現量などについて検討する. これらにより生育中に引き起こされる生体応答による骨格筋代謝への影響をエネルギー代謝とストレス応答の側面から制御することが可能になり,可食部位である骨格筋の品質向上および生産効率向上のための基礎的知見を蓄積する.
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Causes of Carryover |
出産のため産前・産後休暇および育児休暇の取得により事業を一時中断したことから次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1年以内に復帰し.事業を再開する予定である.26年度に行えなかった実験を再開したと同時に始め,1年の事業の延長を申請し,引き続き事業を行うことで交付額を使用する計画である.
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Research Products
(4 results)