2013 Fiscal Year Research-status Report
過放牧により劣化した乾燥地草原の水循環回復過程の解明
Project/Area Number |
25850163
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西田 和弘 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (90554494)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 過放牧 / モンゴル / 乾燥地草原 / 土壌水分 / 水収支 / 浸透量 / 水循環 |
Research Abstract |
過放牧により劣化した草原を再生させることは世界的に重要な課題であるが,これには,その土地元来が持つ水循環へと回復させることが核心となる.本研究は,異なる放牧状態にあるモンゴルの草地における土壌水分・水収支項目の測定と現場土壌の物理性を用いた水循環の数値計算により,放牧の有無による土壌水分量・水収支の違い,禁牧による草原の水循環回復過程を明らかにすることを目的としたものである. 平成25年度は,草原を柵で覆い動物の侵入を防止した試験地内とその外(通常の草地)において土壌水分量変化,各種水・熱収支項目の連続測定,土壌サンプリングによる鉛直水分量の測定を行うことで,モンゴル草地の土壌水分環境・水熱収支の特徴,および放牧状態の違いがこれらに与える影響を調べた.さらに,柵内外,これらと隣接する土壌特性が異なる草地において浸透能を測定することで,放牧の有無,土壌の特性が浸透能に与える影響を調べた. 結果,①植物の生育と強い関係を持つ蒸散は,降雨イベント直後に大きいがそれ以外の多くの期間ではわずかな量であり,降雨パターンが植物の生育に重要であること,②放牧を禁止した草地では,枯れ草による土壌面蒸発抑制効果のため通常の草地と比べ春先の水分量が多かったことがわかった.この結果より,過放牧により劣化した草原の再生に必要な,乾燥地草原の水収支の特徴,遊牧の抑制による草原の水収支変化に関する基礎データを得た.また,③放牧の有無・土壌の特性の違いにより,浸透能は異なり,放牧が行われている草地の浸透能は他と比べて小さいこと,④浸透能の低下は,豪雨時の降雨の土壌への浸入を妨げるため,植物の利用可能な水分量が減少することが明らかになった.この結果より,遊牧の抑制による水循環回復(遊牧による水循環の悪化)のメカニズムの一部が明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は,放牧地,禁牧地における水収支・熱収支の連続観測の開始とこれによる水収支・熱収支の把握が目的であった.そのために,平成25年4月下旬,7月下旬,10月上旬に,現地調査および機器の設置を行ったところ,これらの測定を開始することができ,季節ごとの水収支の特徴・変化を得ることができた.今後これらの計測が順調に継続されることが必要ではあるが,おおむね計画通りの進捗であった. また,対象とする草地それぞれの土壌サンプルを採取・輸入し,現地の草地の土壌特性を調べるための室内実験の一部を開始した.これらは平成26年度以降の予定であったが,当初の予定より若干ではあるが進捗することができた.
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Strategy for Future Research Activity |
乾燥地草原の水循環・水収支,劣化からの回復過程を明らかにするためには,長期間の測定データが必要である.そこで,平成25年度に開始した水収支・熱収支項目の測定・土壌サンプリングによる水分量測定を今後も継続して行い,放牧状態の異なる草地における長期間の水収支・熱収支データの取得を目指す.また,水収支や水循環には,土性の違いが影響を及ぼすことが予測される.そこで,現在の測定地に隣接する土性の異なる砂丘地においても水収支・熱収支項目の測定を開始し,異なる土性の下での水循環の把握を試みる.さらに,現地より採取した土壌を室内実験により分析することで様々な条件にある草地土壌の物理性(透水性,保水性,粒径分布)を得るとともに,土壌中の水・熱移動理論,大気-植物-土壌間の水・熱交換理論に基づく数値モデルを作成し,このモデルと室内実験により得られた特性を用いたシミュレーションを行うことで,禁牧による土壌の物理性の回復が,草地の水循環に与える影響を解析する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初平成25年度初めより新たな2地点での測定を計画していたが,4月の調査時に予算を使用することができず,代替測定器を使用した1地点のみでの測定となった.また,残り1地点の測定地の選定に関して現地研究者と相談したところ,柵の設置・許可に時間を要するため,平成26年度以降の測定が好ましいとの回答であった.そのため,残り1地点の測定に必要な予算および測定器の更新に必要な予算を繰り越した. 平成26年度より測定地点を1点追加し水収支・熱収支項目の測定を実施する。そのため,これに必要な機器を購入する.また,現在測定に用いている代替測定器は別の研究での使用予定があるため,これを更新する.
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