2015 Fiscal Year Research-status Report
クロマチン構造変換複合体によるDNA損傷部位の核内配置制御とゲノム安定化への寄与
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25850242
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
尾間 由佳子 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 研究支援者 (20443997)
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Project Period (FY) |
2014-02-01 – 2018-03-31
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Keywords | DNA二重鎖切断 / 染色体核内配置 / コヒージョン |
Outline of Annual Research Achievements |
遺伝子の発現のみならず、DNA修復の進行にもエピジェネティクス制御は必須であり、その破綻によるゲノム不安定化はがんなどを引き起こす。クロマチン構造に加え、クロマチンの核内空間配置がエピジェネティック制御の分子基盤であり、DNA二重鎖切断(DSB)部位の核膜近傍への移行が、出芽酵母で観察されている。研究代表者らは、DSB領域が、クロマチン構造変換複合体依存的に核膜孔複合体NPCおよび核膜タンパク質Mps3へと係留されることを報告し、クロマチン構造変換複合体がクロマチン核内空間配置変化に関与することを初めて示した。そこで、本研究では、DSBの核膜近傍への移行の意義とその機構を明らかにすることを目的とした。 DSBの修復経路の一つである相同組換え(HR)修復では、DNA合成後の姉妹染色体を損傷DNA修復の鋳型として利用することにより、遺伝情報の欠失や変異のない正確な修復を行うことが可能となる。そこで、DSBの核膜近傍への繋留の意義として、効率的な相同組換え修復に必要な損傷誘導的染色分体接着(コヒージョン)への関与を考えた。クロマチン免疫沈降(ChIP)解析により、染色体接着タンパク質コヒーシンのDSB領域への結合を解析したところ、NPCおよびMps3は関与しないことが示された。一方で、SWR1クロマチン構造変換複合体によるNPCへのDSB領域の繋留が、この領域のコヒージョン形成に関与していることが示された。これらの結果から、クロマチン構造変換複合体を介したDSB領域のNPCへの繋留は、DSB領域のコヒーシンの結合ではなく、コヒージョンの確立に寄与することでDNA損傷後のHR修復に重要な役割を果たすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DSBの核膜近傍への移行の意義とその機構の解明を本研究の目的としているが、まず、DNA損傷誘導的なコヒージョンに重要であるという意義を見出したことは大きな成果である。次に、移行機構を解明するにあたり、DSBのNPCへの結合には、NPCに結合したSUMO依存性ユビキチンリガーゼSlx5/8が必要であることが知られていることから、slx5/8変異株を用いてDNA損傷依存的なコヒージョン形成にSUMO化およびユビキチン化が関与するか解析を行った。その結果、変異株においてコヒージョン形成の低下が観察されたことから、DNA損傷依存的なコヒージョン形成へのSUMO化およびユビキチン化の関与が示唆された。DSBの核膜近傍への移行の意義に加え、移行機構の少なくとも一部を解明したことから、研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
アクチンに結合してその機能に影響を与える様々な化合物(例えば、サイトカラシン、ラトランキュリン、ファロイジン、など)が知られておりアクチンとArp の構造の類似性などを考えると、これらの化合物やその誘導体がArp に結合することが予想される。そこで、出芽酵母で発現・精製したArp タンパク質を用いて、共沈降や表面プラズモン共鳴により上記化合物とその誘導体のスクリーニングを行う。また、そのスクリーニングした化合物を出芽酵母に作用させ、損傷誘導的コヒージョン形成やDSBの核膜近傍への移行への影響を指標とすることで、クロマチン構造変換複合体機能への影響の評価を行う。
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Causes of Carryover |
当該年度における研究により、DNA損傷誘導的なコヒージョン形成には、タンパク質のSUMO化およびユビキチン化が関与していることが示唆された。このことは申請段階では計画になかったが、研究課題であるDNA損傷部位の核内での空間配置制御の解明にあたり、重要であると考え優先的に解析を行った。そのため、次年度使用額が生じる結果となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後の推進方策に記述したとおり、アクチンおよびArpに結合する化合物のスクリーニングを行う。次に、DSB領域に結合する修復関連タンパク質やヒストンについて、そのSUMO化やユビキチン化修飾部位に変異を入れた変異株と上記化合物を組み合わせることで、DNA損傷修復における、タンパク質修飾とアクチンおよびArpとの関係について解析を行う。
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