2013 Fiscal Year Research-status Report
チロシンキナーゼの安定同位体標識手法の確立と構造検出型阻害剤結合評価への応用
Project/Area Number |
25860020
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
小橋川 敬博 熊本大学, 生命科学研究部, 准教授 (90455600)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | チロシンキナーゼ / 阻害剤 / NMR / 安定同位体標識 / 大腸菌 |
Research Abstract |
これまでにFGFR1のキナーゼドメインの安定同位体標識試料の調製に成功していたが、平成25年度は、その手法の汎用性の検証、共通プロトコールの構築を行った。FGFR1、c-Abl、Mer、c-Met、Csk、VEGFR1、Zap7、Syk、Lckの9種類について検討を行った。その結果、FGFR1、c-Abl、Mer、c-Met、Csk、VEGFR1について発現に成功した。それらについて、以下の項目について共通化が可能であることが確認された。(1) 培地の種類、(2) 培養温度、(3) 抗生物質の耐性遺伝子の種類、(4) 融合タグの種類、(5) 発現誘導のプロモーターの種類、(6) 共発現させるタンパク質の一つ(PTP1B)、(7) 誘導タイミング、(8) 誘導後の培養時間。一方、共発現させるシャペロンの種類は最適化が必要であることが確認された。これらに基づき、チロシンキナーゼ発現用ベクターpCold-GKを構築した。また、発現に成功したものについては安定同位体標識試料の調製を行い、c-Abl以外はNMR測定に十分な量の試料が得られることを確認した。NMRの測定条件の最適化までは行っておらず、測定中に沈殿が生じること、ピークの一部が消失していることが確認された。FGFR1についてのみ、解析に耐えうる質のNMRスペクトルおよびサンプルの安定性が確保できている。c-Ablは不安定であり、精製中に沈殿し、多くが失われる。精製方法の検討が必要である。ただし、精製の初期に阻害剤を添加しておくことで、安定性の問題はクリアできる。また、発現できなかった試料についても共通の特徴が見いだされており、改良の余地がある。これらの結果の一部について2件の学会発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね順調に計画通りに推進していると言える。発現プロトコールのうち、どこまでが共通化が可能であり、どれについて最適化が必要であるかを明らかにすることができた。また、汎用化のためのベクター系 (pCold-GK)と、これとセットで用いる発現用大腸菌株を構築しており、新たなチロシンキナーゼを発現させる際には、コントロール実験を含めて、3種類の発現条件を試せばよいことが明らかとなった。ただし、この手法では発現できないチロシンキナーゼも明らかになっており、それらの共通性も見いだされている。そのため、これまでに構築した発現手法の限界と、その理由が明らかになっている。安定同位体標識チロシンキナーゼの汎用的な発現手法の構築において、一定の成果は得られたと言える。5種類のチロシンキナーゼについて安定同位体標識試料が得られ、そのうち1種類 (FGFR1)について良好なNMRスペクトルが得られている。平成26年度に計画している、NMRを用いたON-構造、OFF-構造の判定手法の構築には、FGFR1をモデルタンパク質として利用することが可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、良好なNMRスペクトルが得られているFGFR1をモデルとして、ランタノイドプローブ法およびカップリング定数 (J値)を利用した構造検出型の薬剤結合評価手法の開発を行う。最初に、ランタノイド結合タグの固定点の最適化を進める。ランタノイドイオンの固定化に成功した段階で、アミノ酸選択標識試料を作成し、薬剤有りと無しの状態でのPCS (Psseudo Contact Shift)の取得を行う。NMR信号の帰属は変異体を利用する。また、J値を用いた2面角情報の取得についても検討する。DFGモチーフはon-構造とoff-構造では大きく2面角が変化する。2面角はJ値と相関がある。アミノ酸選択的同位体標識試料では信号の重なりが緩和されるので、2次元NMRスペクトルベースの測定法について検討を行う。 平成25年度の研究結果より、ここまでに開発した発現手法の限界と、その理由が明らかになっている。その大きな理由は、比活性が高いチロシンキナーゼにおいては、PTP1Bの共発現だけでは活性が十分に抑えられないことである。そのため、PTP1Bの共発現に加えて、さらに強力に活性を阻害する手法を考案し、組み込むことが必要であり、検討を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は次年度使用額が発生している。その、一つ目の理由は、出張旅費が減ったことである。平成25年4月に北海道から熊本へと異動となり、地理的要因により、出張の際の交通費が減った。また、異動先において、本研究種目の推進の妨げとならないエフォートの範囲内において、他の研究プロジェクトにも参画することとなった。2つの研究プロジェクト間で共通して収集する情報、打ち合わせ等もあり、異動先で新たに参画したプロジェクトの経費で出張した。これが2つ目の理由である。それにより、本研究種目の推進には支障なく、情報収集等を行えた。3つ目の理由は、平成26年度の研究遂行上、次年度使用額として繰り越しておくことが必要であると判断されたためである。 平成26年度はNMRの測定を実際に行うが、そのため、安定同位体標識試薬類の購入、阻害剤の購入、ランタノイド固定化のための試薬類の購入を計画しており、平成25年度よりも大幅に試薬代がかかる。また、大量のタンパク質試料の調製が不可欠であり、超音波破砕機を購入する予定である。加えて、NMRの使用時間と使用料も前年度よりも必要となる。
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