2013 Fiscal Year Research-status Report
細胞膜メタロプロテアーゼADAMによるインスリン情報伝達系制御機構の解明
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25860064
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Hokkaido Pharmaceutical University School of Pharmacy |
Principal Investigator |
高栗 郷 北海道薬科大学, 薬学部, 講師 (90623710)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ADAM17 / インスリン抵抗性 / インターロイキン-1 / エンドセリン-1 |
Research Abstract |
[目的]細胞膜メタロプロテアーゼA disintegrin and metalloproteinase (ADAM)は、細胞膜受容体およびリガンドを切断する役割をもち、がんを含む多くの疾患の発症・進展に深く関与することが報告されている。一方で、骨格筋や脂肪組織におけるインスリン抵抗性において、ADAMの生理的役割やADAMを発現調節する生理活性物質やその機序は不明である。本研究では、骨格筋細胞を用いて、サイトカイン刺激によるADAMの発現調節機構およびインスリンシグナル伝達に対するADAMの機能的役割を明らかにすることを目的とする。 [実施計画]平成25年度は、以下のことについて明らかにした。 1. インスリン抵抗性の発症に関わる種々のサイトカイン(IL-1α、IL-1βおよびIL-6)によって、ADAM9、15、17および19の発現プロファイルを検討した。その結果、IL-1αおよびβは、ADAM17mRNAおよびタンパク質の発現を特異的に増加させた。また、その発現機序に関して、各種阻害剤を用いた実験から、JNKおよびERK、それらに活性化される転写因子NF-κBおよびAP-1が関与することが示された。 2. エンドセリン-1(ET-1)は、インスリン抵抗性を惹起させる生理活性物質として知られていることから、ET-1によるインスリンシグナル伝達阻害に対するADAM17の関与を検討した。インスリンによるAktリン酸化のET-1による減少は、アデノウイルスを用いADAM17を細胞に過剰発現させると、その減少がさらに顕著になることが示された。さらに、IL-1α存在下、ET-1によるAktのリン酸化減少は、miRNAによりADAM17をノックダウンすると、その抑制は解除された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度の研究計画で、ADAM17を介在して起こるインスリンシグナル伝達阻害に対して、その阻害に関わるADAM17の直接の下流分子の同定まで行う予定だったが、明らかにできなかった。 ADAM17に切断される前駆体リガンドのひとつに、ヘパリン結合性上皮細胞成長因子(heparin binding-epidermal growth factor;)がある。EGFで骨格筋細胞を刺激すると、インスリン抵抗性の起因となるインスリン受容体基質のセリン残基のリン酸化を引き起こすERKのリン酸化を生じた。このことは、ADAM17を介在して起こるインスリンシグナル伝達抑制において、ADAM17がHB-EGFを切断し、骨格筋細胞のEGF受容体を活性化する結果、インスリンシグナル伝達を抑制する可能性があった。しかしながら、EGF受容体の阻害剤AG1478を用いた実験では、ADAM17を介在するインスリンシグナル伝達阻害に影響を及ぼさなかった。この結果は、ADAM17によるHB-EGFの切断は、ADAM17を介在するインスリンシグナル伝達阻害に直接関与しないことを示唆する。今後、ADAM17に切断される既存の分子の阻害剤やsiRNAを用いて、ADAM17を介在するインスリンシグナル伝達阻害に関わるADAM17の下流分子の同定を平成26年度中に行う。
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Strategy for Future Research Activity |
骨格筋細胞において、エンドセリン-1は、ADAM17を介在し、インスリンシグナル伝達を阻害することが示されたが、明らかになっていない以下の点について、今後検討していく。 1. エンドセリン-1がADAM17を活性化させるメカニズムを明らかにする。エンドセリン-1により動く既存の分子のみならず、酵母ツーハイブッリド法を用い、骨格筋細胞におけるADAM17と結合する新規結合タンパク質を同定し、ADAM17の活性制御メカニズムを明らかにする。また、活性化されたADAM17が、どの分子を制御してインスリンシグナル伝達を阻害するかを、ADAM17によって切断されるリガンドおよび受容体の各種阻害剤およびsiRNAを用いて明らかにする。 2. C57BL/6Jマウスに、高脂肪食負荷することによりインスリン抵抗性モデルマウス作製し、骨格筋および脂肪組織におけるADAM17の発現変化を検討する。また、ADAMの阻害剤および上記で明らかとなった分子の阻害剤などを、インスリン抵抗性モデルマウスに投与し、グルコース負荷試験を行い、血糖動態を観察する。これらの実験により、インスリン抵抗性に対するADAMの生理的役割の意義を明らかにする。 これらの結果を取りまとめ、論文投稿を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究計画で、ADAM17を介在して起こるインスリンシグナル伝達阻害に対して、その阻害に関わるADAM17の直接の下流分子の同定まで行う予定だったが、当初予想していたものとは異なる結果が得られたため、それ以後の解析に使用する予定だった物品費(阻害剤およびsiRNA購入費)分が次年度使用分となった。 平成25年度未使用分であった助成金は、平成25年度中に行う予定であった、ADAM17を介在するインスリンシグナル伝達阻害に関わるADAM17の直接の下流分子の同定を行うための阻害剤およびsiRNA購入費などに当てる。 平成26年度助成分は、酵母ツーハイブリッド法によるるADAM17の新規結合タンパク質の同定に関わる費用およびADAM17の生理的意義を明らかにするため、動物購入費および動物実験に関わる費用に当てる。
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