2014 Fiscal Year Research-status Report
タウ蛋白を標的とした新たな漢方由来アルツハイマー病治療薬の探索および作用機序解明
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25860075
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
藤原 博典 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 助教 (10396442)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | タウ蛋白リン酸化 / GSK-3β / 認知症 / 漢方 / 黄ごん |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度では、嗅球摘出(OBX)マウスに加えて、認知症研究に用いられる老化促進マウス(SAMP8)およびその対照マウス(SAMR1)を用いて、黄ごんを含んだ漢方である黄連解毒湯の認知機能低下改善効果およびその作用機序について検討した。6ヶ月齢SAMP8およびSAMR1にヒト換算3倍および10倍量の黄連解毒湯を飲水に含めて1ヶ月間投与した後に、物体認知試験(ORT)および恐怖条件付試験を行った。その結果、SAMP8はSAMR1に比べて認知機能が低下しており、対照薬のドネペジル(2.5 mg/kg/day)がSAMP8の認知機能低下を有意に改善したのに対し、黄連解毒湯は用いた濃度域においてORTおよび恐怖条件付試験の音刺激に対する記憶の改善傾向は認められたものの、有意な結果とはならなかった。 また、これらのマウスから海馬および大脳皮質を摘出してタウ蛋白リン酸化酵素の一つであるGSK-3βの活性をキナーゼアッセイにて検討したところ、SAMP8ではSAMR1に比べてGSK-3βの活性が増強しているのに対し、黄連解毒湯投与SAMP8群では、大脳皮質で有意に活性が低下していることが確認された。また、海馬においても活性低下傾向が認められた。このことから、in vivoにおいて黄連解毒湯は脳内のGSK-3βを阻害することが示唆された。ただし、行動実験および海馬のGSK-3β活性では改善傾向を示したに過ぎなかったため、現在、ヒト換算30倍量の黄連解毒湯、および別の黄ごん含有漢方である三黄瀉心湯を用いて検討中である。行動実験のうち、ORTについてはそれぞれの漢方投与群について有意な改善効果が認められた。その他の行動試験および採用機序については引き続き検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
認知症モデル動物を用いたin vivo解析では、前年度のOBXマウスの追加実験に加えて、SAMP8での検討を開始し、それぞれのモデルマウスの認知機能低下に対して、黄ごん含有漢方である黄連解毒湯が改善傾向を示すことが確認された。ただし、有意差は認められないため、現在、濃度・投与期間等の再検討を行っている最中である。 また、黄ごんを含む他の漢方処方である三黄瀉心湯でも検討を開始し、preliminaryではあるが、黄連解毒湯と同様に認知機能低下改善効果を有することが示唆された。 さらに、これらの漢方を経口投与することにより脳内のGSK-3β活性が抑制されることが確認され、成分は未同定ではあるが漢方(おそらくは黄ごん)の有効成分が脳内に移行して作用を発現することが示唆された。黄ごんの有効成分候補が生薬に一般的に含まれるフラボノイド群であることから、フラボノイド高含有生薬を含んだ漢方を選択することにより、次年度以降もタウ蛋白およびGSK-3βに作用して認知機能低下を改善する漢方を探索することが可能であると思われる。 以上のように、申請時に示した今年度の達成目標である「認知症モデルマウスを用いた検討」において一定の研究成果を得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きOBXマウスやSAMP8を用いて、認知機能低下における黄連解毒湯および三黄瀉心湯の改善作用を検討するとともに、海馬・大脳皮質およびその他の部位におけるGSK-3β阻害作用やその他の作用機序について、ウェスタンブロッティング法やELISAを用いて解析していく。また、黄連解毒湯と三黄瀉心湯はどちらも黄ごんを含んだ漢方であるが、行動薬理実験の結果から異なった効果があることも示唆されている。両漢方は黄ごんの他にも共通する生薬(黄連)や異なる生薬(黄柏、山梔子、大黄)を含んでいるため、GSK-3β阻害作用やタウ蛋白リン酸化抑制作用に対する影響に加えて、両漢方で異なる作用機序を解析することにより、より認知症に有用な薬理作用を発見することが出来ると期待される。具体的にはアミロイド蛋白蓄積に対する影響や、LTPに関わるメカニズム分子のリン酸化(CREB等)について検討していくとともに、GSK-3β阻害作用やタウ蛋白リン酸化抑制作用との相関性についても検討していく。さらには、これらの漢方を経口投与した際に脳内に移行する成分を同定し、有効成分の検討も併せて行っていく予定である。
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