2013 Fiscal Year Research-status Report
覚せい剤類似化合物の構造と精神依存性・神経毒性の連関評価
Project/Area Number |
25860103
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
山下 琢矢 神戸学院大学, 薬学部, 助教 (10645203)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 覚せい剤類似化合物 / 神経毒性 / プロテオミクス / バイオマーカー |
Research Abstract |
1:神経細胞を用いた生体影響評価…(1)細胞毒性:分化誘導したラット褐色細胞腫(PC12)、ならびにヒト神経芽細胞腫(SH-SY5Y)細胞に対して、各種化合物はすべて覚せい剤と同等以上の細胞毒性を示し、その強度はメトキシ<フッ素<メチル基置換体の順であった。(2)神経分化:全ての化合物において覚せい剤と同等以上の神経突起伸長阻害作用が観察され、中でもその作用はメトキシ基を3位もしくは4位に持つアンフェタミン類似化合物でのみ著しいことが明らかとなった。さらにそのメカニズムとして、細胞骨格の形成に深く関わるRho-associated protein kinaseのリン酸化阻害によることをWestern blotting解析で明らかにした。(3)細胞内ドーパミン:細胞内ドーパミンレベルは全ての化合物において覚せい剤と同等程度に減少し、強力な細胞外へのドーパミン遊離作用が示唆された。 2:マウスを用いた生体影響評価…(1)脳内カテコールアミン: 雄性ddyマウスに対して無処置群と比較して全ての化合物投与群で脳内ドーパミン含量の増加が認められた一方で、メトキシ基置換体処置群においては、脳内セロトニン、ノルエピネフリンも増加傾向にあることが示唆された。さらにすべての化合物において、モノアミンオキシダーゼに対する活性阻害が観察された。(2)血管透過性:覚せい剤投与群で観察される血管透過性の上昇が、メトキシ基4位に持つ覚せい剤類似化合物では観察されないことが判明した。(3)脳内プロテオーム:無処置群と比較して各化合物処置により共通して変動する分子、化合物に特異的に変動する分子を複数見出した。 これまで基礎骨格が同様であれば、乱用薬物は類似した生理作用を及ぼすだろうと推測されてきたが、本研究により、置換基の種類や位置によって各化合物は様々な特性を持つ可能性が示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1:計画よりも進行している点…(1)各実験に使用した覚せい剤類似化合物は当初計画していた覚せい剤(アンフェタミン・メタンフェタミン)のフッ素、メトキシ基置換体12種に加え、メチル基置換体6種を追加した計18種であること。(2)突起伸長へ各化合物が及ぼす影響に関する研究で、研究実施期間中には困難と判断し、当初予定していなかった作用メカニズム解明の一部を達成したこと。(3)本来は平成26年度に実施予定のプロテオミクス研究を先行実施し、成果を得ていること。 2:計画通りに進行している点…(1)毒性、(2)神経分化、(3)カテコールアミン、(4)血管透過性に各化合物が及ぼす影響に関しては、交付申請書の計画通りに実施し、成果を得たこと。 3:計画よりも遅れている点…動物を用いた各化合物の毒性・精神依存性に関する研究では、計画通り実施しているものの、18種へ化合物数が増加したこともあり、再現性良く結果を得るまでに至っていないこと。 上記のように当初の計画よりも進展している、あるいは計画通りに進展している点が多く研究が遅れている点もあと一歩で達成可能であることから、自己評価として、「(2)おおむね順調に進展している。」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、計画よりも進行が遅れている各化合物の毒性・精神依存性の再現性評価を急ぐとともに、当初の計画通り、本年度中にプロテオーム解析により見出したん白質の同定と、発現分布評価をはじめとした機能解析を実施する予定である。現在のところ根本的な研究計画の変更等は考えていない。 また、覚せい剤類似化合物の処置によって脳内たん白質変動が起こるという、本研究の成果状況から、血液など組織液中のたん白質も変動している可能性が推測できる。これにより、将来的な発展研究として「動物への薬物投与を必要としない精神依存性・毒性評価法の確立」が可能ではないだろうかと考えている。つまり、脳や神経細胞内だけでなく、血液や培養上清などに含まれるたん白質を解析対象とすることによって、いわゆる「薬物依存性・毒性バイオマーカー」を見出せる可能性がある。このバイオマーカーの有無を細胞培養系によって検出可能な評価法を確立できれば、動物ではなく、培養細胞へ候補化合物を添加するだけで、多種化合物の乱用性・有害性を迅速かつ簡便に判断できるかもしれない。現在の違法ドラッグ規制のボトルネックは「多種の化合物の乱用性・有害性を迅速に評価できない」ことにあり、上記の手法が確立できれば、この問題点は一気に解決できる可能性がある。以上の将来像を見据えつつ、本来の研究計画を実施し、本研究の発展を図りたい。
|