2013 Fiscal Year Research-status Report
加工食品中の特定原材料の検出に適した遺伝子検査法の開発
Project/Area Number |
25860104
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
張替 直輝 日本大学, 薬学部, 准教授 (90454743)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 遺伝子検査 / 食品衛生学 |
Research Abstract |
本研究の目的は加工食品中の特定原材料の検出に適した遺伝子検査法の開発である。今年度は、①PCRによる食品中の原材料の検出が加工処理で低下する要因を解明するためのPCR増幅領域の長さと劣化DNAの検出率の関係の解析、②劣化DNAを検出するための新規遺伝子検出法の開発について検討した。今回は基礎的な検討に焦点を絞ったため、食品のゲノムDNAではなく、塩基配列が適度な長さで品質が安定しているλDNAを試料に用いた。 ①では、λDNAに対して人工塩基を含んだ8塩基のプローブと17塩基のプライマーを用いて増幅領域45~506 bpの間で11種類のPCR条件を作成した。λDNA水溶液をオートクレーブで105℃にて3~90分間処理して劣化DNA試料を調製し、定量PCRで解析した。その結果からDNA試料への処理時間及びPCR増幅サイズと検出率の対数との間にそれぞれ負の直線関係が成立し、処理時間とPCR増幅サイズの増加に伴いPCRによる検出率が低下することが確認された。またその傾きからPCR増幅サイズが大きいほど単位負荷時間当たりの検出率が低下することが明らかになった。 ②では、λDNAの中の420塩基の配列でdTの代わりにdUを組込んだDNAを合成した。その配列の中の17塩基のDNAを合成し劣化DNAと見立て、その合成DNAと混合した。その17塩基のDNAを起点にポリメラーゼで複製反応した後、ウラシル-N-グリコシラーゼを加えてdUを含んだ合成DNAを分解した。この反応液の一部を取って複製した配列を定量PCRで測定した。その結果、複製の起点となるDNAの添加量が多いほどCt値が低くなった。更に105℃90分で処理したλDNAが複製の起点となるかを検討したところ、水の対照群よりも約5サイクル低いCt値が得られた。従って、本方法で劣化DNAから復元した配列を定量PCRで検出できることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、代表的な加工処理の一つである高温高圧処理によるDNAの劣化とPCRの検出率との関係を検討し、DNAの処理時間及びPCR増幅サイズと検出率の対数との間に負の直線関係があること、処理時間とPCR増幅サイズの増加に伴いPCRでの検出率が低下することを明らかにした。この結果を用いることで、PCR検査に用いるプライマーの増幅領域の長さからDNA試料の劣化に伴う検出率低下の程度を予測するという目的を達成することができた。また、人工塩基を用いることで作成することができた増幅領域45塩基のPCR条件は、例えば105℃30分で処理したDNA試料に対して一般的なPCR検査で用いられる増幅領域100塩基程度のPCRに比べてその検出は約55倍高く、劣化したDNA試料の検査に有用であることも確認できた。更に、極度に劣化したDNA試料から元の配列を復元して検出する方法を開発し、その方法によって105℃90分処理したDNA試料の検出を高めることができた。従って、加工処理によるDNAの劣化の解析や劣化DNAの検出に関わる技術の開発については、当初の計画をある程度達成できた。 一方、当初の計画では、食品、特に特定原材料である落花生のゲノムDNAを試料に用いて行う予定であった。しかし、全長が極めて長いゲノムDNAは試料として品質の安定を確保することが難しいため、今回は全長が適度な長さのλDNAを試料として用いて基礎的な検討を行った。従って、今回の研究では、食品の遺伝子検査に対して、有用な情報や技術を間接的にしか提供できなかった。また、劣化DNAから配列を復元して検出する方法は開発できたが、その特異性、検出感度、操作性などについては更なる検討が必要であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究ではλDNAを試料に用いて、DNAの劣化の解析や劣化DNAの検出法の開発について基礎的な検討を行うことができた。次年度はそれらの知見や技術を活かして、特定原材料である落花生のゲノムDNAを試料とし、その劣化の解析やDNA検出法の開発を効率良く進める。更に、それらの結果から加工処理によるDNAの劣化の程度を表す数式もしくは変換表を作成し、それを使うことで未加工処理DNA相当量が算出できるようにする。また、開発した劣化DNAの検出技術を活かすために、食品からの劣化DNAの抽出に適したDNA抽出法もしくはPCR阻害物質抑制試薬を用いたPCR試料調製法について検討する。近年、我々はシリカ膜を利用したスピンカラムによるDNA抽出において、カラムにDNAを吸着させる際の溶液のカオトロピック塩濃度の違いによって、劣化DNAの回収量に差が生じることを見出しており、この知見も応用する予定である。これらの検討を通して、加工食品中の特定原材料の検出に適した遺伝子検査法の開発を目指す。 一方、今年度、λDNAで行ったDNAの劣化の解析や劣化DNAの検出に関する基礎的な検討についても継続する。今年度検討できなかった他の加熱加圧条件、pHの変化、酵素添加などによるDNAの劣化の解析、今年度開発した劣化DNAから配列を復元して検出する方法の特異性、検出感度、操作性の改善についての検討など、詳細かつ幅広く検討を進める予定である。それらから得られた結果も落花生のDNA試料を用いた検討に随時反映していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の劣化DNAから元の配列を復元して検出する方法の開発において、復元条件の検討などに予定よりも大幅に時間を要してしまったため、当初計画していたこの方法の特異性、検出感度、操作性などについての詳細な検討ができなかった。そのため、本来、今年度予定していた試薬や消耗品の購入が遅れ、次年度使用の研究費が生じた。 今年度、劣化DNAから元の配列を復元して検出する方法を開発したが、当初の計画ではその方法の特異性、検出感度、操作性などについて、より詳細に検討する予定であった。今年度行うことのできなかったこれらの検討を次年度に行う予定である。従って、生じた次年度使用の研究費は、本方法の検討に重要な役割を果たすウラシル-N-グリコシラーゼの購入などに充てる。
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