2013 Fiscal Year Research-status Report
脱接着誘導性細胞死に伴う解糖系の抑制機構とその意義
Project/Area Number |
25860247
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
石川 文博 昭和大学, 薬学部, 助教 (60515667)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | がん / アノイキス / 代謝 |
Research Abstract |
がん細胞の代表的性質として足場非依存的増殖能があるが、その分子機構を明らかとするため、接着喪失時に正常乳腺上皮細胞(HMEC)に誘導される細胞死 (anoikis)の制御機構の解析を行った。本課題では解糖系の代謝変化がanoikisに関与している可能性を調べるため、その律速段階の一つであるフルクトース6リン酸からフルクトース1,6ビスリン酸(F1,6BP)への代謝を担うホスホフルクトキナーゼ1 (PFK1)の脱接着に伴う抑制制御機構に注目して解析を行った。まず転写レベルでの制御の可能性について、3つのPFK1アイソフォームについて、脱接着によりmRNAが低下するかどうかを調べたところ、筋型と血小板型の低下が認められた。同様に、タンパク質も低下が認められるかどうかを調べたが、予想に反していずれも変化しなかった。従って、PFK1の量的変化が解糖系の抑制につながる可能性は否定された。そこで、次にPFK1の翻訳後修飾について、促進的に調節するリン酸化と抑制性のO-グリコシル化に注目して解析を行った。まずPhos-tagアクリルアミドを用いてリン酸化の変化を調べたが、脱接着によるPFK1のバンドシフトは見られなかった。また、O-グリコシル化についても変化は認められなかった。最後にアロステリックな制御機構について、活性化制御因子であるフルクトース2,6ビスリン酸(F2,6BP) の量的変化ついて検討を行った。F2,6BPによって活性化されるPPi-PFKを用いた酵素法によって細胞内のF2,6BP量を測定したが、脱接着によって全く変化を示さなかった。予定にはなかったが、PFK1の逆反応を担うフルクトースビスフォスファターゼ1の発現を調べたが変化は見られなかった。以上の結果から、PFK1の量的変化、翻訳後修飾、アロステリック制御は、いずれも脱接着により変化しないという結論を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度は解糖系律速段階の一つを担うPFK1の抑制的制御機構を中心に、ほぼ実地計画に従って解析を行った。 1.量的変化の可能性 PFK1の3つのアイソフォームについて、脱接着によるmRNAの発現変化をreal time RT-PCR法を用いて調べた結果、筋型と血小板型の発現が特異的に低下した。しかしながら、特異抗体を用いたwestern blotを行った結果、その低下はタンパク質レベルでは見られず、PFK1の量的変化が細胞死誘導の原因になる可能性は低いと考えられた。 2. 翻訳後修飾とアロステリック制御の可能性 翻訳後修飾については、PFK1の活性を正に制御するリン酸化と負に制御するO-グリコシル化について検討を行った。リン酸化については全てのリン酸化を考慮することができるPhos-tagアクリルアミドを用いたバンドシフトを指標に評価を行った。その結果、PFK1抗体を用いたwestern blotでバンドシフトは観察されなかった。従って、脱接着によりPFK1のリン酸化が変化する可能性は低いと考えられた。同様にO-グリコシル化に関しても変化は認められなかった。そこで、脱接着により共有結合性の翻訳後修飾が変化し、PFK1の活性に影響を及ぼしている可能性について検討を加えた。接着状態と脱接着状態の細胞の溶解液を用いてPFK1活性を測定した結果、酵素活性に全く変化がないことが明らかになった。従って、リン酸化やO-グルコシル化を含むPFK1活性に影響を及ぼす共有結合性の翻訳後修飾は接着状態に依存して変化しないと考えられた。アロステリック制御に関しては、PFK1の活性化制御因子として知られるフルクトース2,6ビスリン酸(F2,6BP)の量的変化について検討を行ったが、やはり変化は認められなかった。以上の結果から、既存のメカニズムによるPFK1制御の可能性は限りなく低くなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の結果から、脱接着によるPFK1の抑制制御機構は、これまでに報告されてきたいずれのものとも異なった新規の機構である可能性が高くなった。そこで計画書に従い、TAP (Tandem affinity purification)タグをPFK1に融合した発現系をHMECに導入し、アフィニティー精製した後LC-MSを用いて、接着状態に依存して変化する相互作用因子の同定を試みる。一方で、脱接着による標的段階が現在注目しているフルクトース6リン酸からフルクトース1,6ビスリン酸(F1,6BP)への代謝とは異なる可能性も考慮に入れて、もう一度解糖系の各段階での代謝物の変化について異なる方法論で測定する。さらに、脱接着によりフルクトース6リン酸が増加していることから、ヘキサミン経路についても検討を加える予定である。関与因子が同定された場合は、平成26年度の実地計画に従い、PFK1の抑制的な制御機構が乳がん細胞で破綻しているかどうかを調べる。主に高転移型乳がん細胞株MDA-MB-231を用い、脱接着によるPFK1の抑制機構が破綻しているかどうかについて検討を行う。乳がん細胞株で当該抑制機構の破綻を確認した後、関与因子を乳がん細胞中で過剰発現もしくはRNAiにより発現抑制することで遺伝子操作を行い、anoikis感受性が回復するかどうかについて検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は脱接着に応じたPFK1抑制的制御機構の解析が多少遅れたため、計画していた相互作用因子の同定を試みるまでには至らなかった。そのため、相互作用因子の同定に必要となる多量の培養器具や培地、試薬に使用を予定していた研究費を使用せずに次年度に繰り越すことになった。 平成25年度に予定していたPFK1との相互作用因子の同定に使用する予定である。また同定された因子に関して、anoikisへの関与を調べるために必要となる過剰発現系やshRNAの作成、siRNAの購入に使用する。
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