2013 Fiscal Year Research-status Report
脳動脈瘤の破裂に関連する遺伝子発現制御ネットワークの解明
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25860257
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
中岡 博史 国立遺伝学研究所, 総合遺伝研究系, 特任研究員 (70611193)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 脳動脈瘤 / くも膜下出血 / トランスクリプトーム解析 / 破裂 / 炎症反応 / マクロファージ浸潤 |
Research Abstract |
未破裂および破裂脳動脈瘤組織を用いたトランスクリプトーム解析を行うことで、脳動脈瘤の破裂と関連する遺伝子を同定した。未破裂および破裂脳動脈瘤を用いたトランスクリプトーム解析の問題点は、脳動脈瘤の生物学的状態が不均一であることである。(例えば、収集時に未破裂であった瘤の中には、将来破裂のリスクが高い瘤もあれば、生涯未破裂のままである可能性の高い瘤もあり、不均一な状態であると考えられる)そこで、次元縮小法を用いて破裂・未破裂脳動脈瘤検体を均一なサブセットに分類することで差異の検出力を高め、破裂および未破裂脳動脈瘤の間で発現量に差のある遺伝子プロファイルの同定を試みた。 結果として、破裂脳動脈瘤サンプルが二つのサブグループに分かれることを明らかにした。これら二つのサブグループは有意に脳動脈瘤破裂時の年齢が異なっていた。つまり、破裂脳動脈瘤サンプルは、破裂時の年齢によって異なる遺伝子発現パターンを示すことが分かった。高齢破裂に比べて、若年破裂サンプルは、破裂しやすい脳動脈瘤の生物学的特性を有していると考え、若年破裂と未破裂の脳動脈瘤サンプルの遺伝子発現プロファイルを比較した。その結果、1,047遺伝子において統計的に有意な発現量の差異が認められた。若年破裂で高発現していた遺伝子群には、炎症反応や免疫反応、マクロファージによる食作用に関わる遺伝子が多く含まれていた。一方、若年破裂で発現が減少していた遺伝子には、脳動脈瘤壁の弱さを示唆する遺伝子が多く認められると同時に、抗炎症性の転写因子群が含まれていた。 これらの結果から、マクロファージを介した炎症反応が脳動脈瘤の破裂に関わる重要な分子生物学的パスウェイであると推察された。同定された遺伝子群は、破裂しやすい脳動脈瘤の予測に有用な分子マーカーや治療のターゲットとしての可能性が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、トランスクリプトーム解析の結果、破裂脳動脈瘤サンプルは、破裂時の年齢によって異なる遺伝子発現パターンを示すこと、脳動脈瘤の破裂にマクロファージを介した炎症反応が重要であることを明らかにした。 本研究内容は国際誌であるStrokeに採択されており、研究の進捗状況は順調であると考えている。 さらに、既存検体を含めて、収集された約50検体について、RNAシーケンシングを進めている。収集できる脳動脈瘤組織は微少であるため、少量のRNAサンプルでもRNAシーケンシングが可能な実験系を確立した。サンプル数の増加による正確な解析結果が期待できるだけでなく、新規転写産物同定やアレル特異的発現解析により、脳動脈瘤破裂に関わる転写制御メカニズムをより詳細に理解できるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
RNAシーケンシングにより網羅的に計測した遺伝子発現情報を用いて、破裂・未破裂脳動脈瘤の間で発現量の差が認められる転写産物を同定する。サンプル数の増加、広範な臨床情報の収集という利点を活かし、若年・高齢破裂の差異のみならず、他の臨床上重要なサブタイプで顕著に認められる発現量の差異についてもプロファイリングする。 破裂脳動脈瘤と未破裂脳動脈瘤において個別に遺伝子共発現ネットワークを構築する。各遺伝子共発現ネットワークでモジュール(互いに強く相関する遺伝子群からなるクラスター)を同定する。二つのネットワーク間でモジュールのオーバーラップを評価することで、破裂脳動脈瘤で異常をきたしているモジュールとして脳動脈瘤破裂関連パスウェイを同定する。同定したパスウェイの遺伝子群では、破裂脳動脈瘤において遺伝子発現調節メカニズムが正常に機能せず、遺伝子発現の相関関係が崩れていると考えられる。 次いで、同定した疾患関連パスウェイについて、我々の研究グループが有している全ゲノム関連解析や全エクソンシーケンスのデータを用い、パスウェイ内の遺伝子にアミノ酸置換を伴う変異やスプライスサイト変異が有意に集積していることを統計的に評価し、新たな脳動脈瘤感受性変異を同定する。 これまでの研究結果から、脳動脈瘤の破裂・未破裂で発現差の認められた遺伝子にエピジェネティックな転写制御に関わる機能を持つ遺伝子が多かったことから、RNAシーケンス解析の結果を踏まえつつ、次世代シーケンサ―を用いたエピゲノム解析も視野に入れたい。
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[Journal Article] Detection of ancestry informative HLA alleles confirms the admixed origins of Japanese population.2013
Author(s)
Nakaoka H, Mitsunaga S, Hosomichi K, Shyh-Yuh L, Sawamoto T, Fujiwara T, Tsutsui N, Suematsu K, Shinagawa A, Inoko H, Inoue I.
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Journal Title
PLoS One
Volume: 8
Pages: e60793
DOI
Peer Reviewed