2013 Fiscal Year Research-status Report
新規モデルマウスを用いた高脂肪食誘導性耐糖能異常における疾患感受性規定因子の解明
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25860300
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
長尾 元嗣 日本医科大学, 医学部, 助教 (10468762)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 選抜交配 / 糖尿病モデルマウス / 高脂肪食 / 耐糖能異常 / インスリン分泌能 / 摂食行動 |
Research Abstract |
3系統の近交系マウス(C57BL/6,C3H,AKR)をもとに、高脂肪食投与後の耐糖能を指標とした選抜交配を行い、高脂肪食誘発性の耐糖能異常を示すSelectively bred Diet-induced Glucose intolerance-Prone(SDG-P系)と、正常耐糖能を維持する-Resistant(SDG-R系)の2系統のモデルマウスを確立した。両系統マウス間における世代横断的な各種表現型 (血糖値、体重、摂餌量)の観察から、選抜指標である高脂肪食投与後の耐糖能に加えて、高脂肪食投与時の摂餌量や体重増加といった付随的な形質も世代が進むごとに系統間の差が拡大しており、本選抜交配によって濃縮された遺伝素因が、糖代謝と摂食制御に関連する因子群であると予想された。 上記の仮説を元に、平成25年度はSDG-P/R両系統マウス間での膵β細胞の形質に関する解析を中心に行い、以下の成果が得られた。まず、SDG-P系はSDG-R系と比較して、生体および単離膵島レベルでのグルコース応答性インスリン分泌能が遺伝的に低下していることを見出した。一方で、耐糖能の差異が顕著となった高脂肪食投与後の膵β細胞量は、耐糖能異常を示すSDG-P系においてむしろ多く、形態学的な代償は保たれていた。これらの事象は、高脂肪食投与時の耐糖能の差異が、膵β細胞の形態(量)よりも機能(インスリン分泌能)によって規定されることを示している。また、単離膵島における遺伝子発現の解析から、SDG-P系では、高脂肪食投与の有無に関わらず、インスリン分泌に関与するGLUT2、PDX-1、SNARE関連蛋白の発現が低下しており、これらの複合的な遺伝子発現の差異が、SDG-P/R両系統マウス間での遺伝的な膵β細胞機能の差異を規定しているものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度はSDG-P/R両系統マウス間での膵β細胞の形質に関する解析を中心に行った。その結果、SDG-P系はSDG-R系と比較して、生体および単離膵島レベルでのグルコース応答性インスリン分泌能が、高脂肪食投与の有無に関わらず低下していた。一方で、耐糖能の差異が顕著となった高脂肪食投与後の膵β細胞量は、耐糖能異常を示すSDG-P系においてより多く、形態学的な代償が生じていると考えられた。これらの事象は、高脂肪食投与時の耐糖能の差異が、膵β細胞の形態(量)よりも機能(インスリン分泌能)によって規定される事を示唆している。また、単離膵島における遺伝子発現を解析した結果、SDG-P系では高脂肪食投与の有無に関わらず、インスリン分泌に関与するGLUT2、PDX-1、SNARE関連蛋白の発現が低下し、脂質輸送に関わるCD36の発現が上昇していた。従って、これらの複合的な遺伝子発現の差異が、SDG-P/R両系統マウス間での遺伝的な膵β細胞機能の差異を規定するとものと考えられた。これらの成果は国際学術誌にて報告した(Nagao M, et al. PLoS ONE 2014)。 摂食行動に関する解析では、SDG-P/R両系統マウス間に体重差がない高脂肪食投与3日目の時点で、血中レプチン濃度を測定した。その結果、高脂肪食投与時に過食となり将来的に肥満となるSDG-P系では、SDG-R系と比較して、自由摂食下における血中レプチン濃度がむしろ低く、低レプチン血症が高脂肪食投与早期の過食につながる可能性を見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度はSDG-P/R両系統マウス間での摂食行動とその制御機構に関する解析を中心に行う。 まず、SDG-P/R両系統マウス間での摂餌量を合わせたペアフィーディング試験を行い、SDG-P系における高脂肪食投与時の過食とそれに伴う体重増加の是正が、系統間での耐糖能の差異にどのような影響を及ぼすのかを評価する。 次に、高脂肪食投与時の摂食行動を規定する要因を解明するため、体重を一致させたSDG-P/R両系統マウス間において、視床下部における摂食関連ペプチドの遺伝子発現や、摂食制御因子であるレプチンやグレリンの血中濃度を測定する。これまでの検討では、レプチンの血中濃度に差異を認めており、レプチン産生臓器である脂肪組織でのレプチン遺伝子発現を評価すると共に、レプチン産生の修飾因子(インスリン依存性糖取り込み、β3アドレナリン受容体の遺伝子発現、レプチンプロモーター領域のエピゲノム修飾)に関する解析を行う。さらに、レプチンの末梢および中枢投与を行って、レプチン感受性の評価、および摂食行動への介入の可否を検証する。 続いて、SDG-P/R両系統マウス間での摂食行動の差異が、高脂肪食投与時に観察される特異的な事象か否かを明確にするため、SDG-P/R両系統マウスに普通食と高脂肪食を投与した群をそれぞれ設け、これら4群間での摂餌量と代謝形質の比較を行う。SDG-P系における過食や体重増加といった事象が、高脂肪食投与時にのみ観察された場合には、高脂肪食と普通食の同時投与による選択性試験を行って、SDG-P/R両系統マウス間での脂質嗜好性の差異を評価し、脂質嗜好性への関与が示唆されている視床下部の小胞体ストレスマーカーについて、遺伝子・タンパク質レベルでの発現解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は研究が概ね順調に推移し、予定していたよりも少ないマウス個体数で期待した成果が得られた。そのためマウスの作出費用や各種測定試薬の購入に関する支出(物品費)が予定額を下回った。また、人件費・謝金に関する支出が発生しなかった。 平成25年度に生じた次年度使用額に関しては、当初予定していた平成26年度予算に加えて、物品費としての使用を予定している。その理由として、摂食行動の解析において、当初の計画よりも多くのマウス個体数を用いた複数の実験を計画しており、解析サンプル数の増加とそれに伴う消耗品支出の増加が見込まれている。
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Research Products
(16 results)