2013 Fiscal Year Research-status Report
生殖補助医療におけるドナーの匿名性廃止の法制度化と子の出自を知る権利を巡る課題
Project/Area Number |
25860384
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Ehime Prefectural University of Health Science |
Principal Investigator |
南 貴子 愛媛県立医療技術大学, 保健科学部, 講師 (10598907)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 生殖補助医療 / 出自を知る権利 / ドナーの匿名性 / オーストラリア・ビクトリア州 |
Research Abstract |
生殖補助医療によって子を持つ家族の増加にもかかわらず、日本においては生殖補助医療を規制する法律が制定されていない。特に第三者(ドナー)の配偶子(卵子・精子)を用いる生殖補助医療に伴う子の出自を知る権利の重要性が、子の福祉の立場から重視されている。日本では、提供精子による人工授精によって既に多くの子が生まれているが、ドナーの匿名性のもとに精子提供が行われており、子の出自を知る権利は保障されていない。海外では、法律によって子の出自を知る権利を認める国(州)が増加しているが、それらの国(州)でも法制度化前に生まれてきた子の出自を知る権利はほとんど認められていない。 本研究では、子の視点に立って、ドナーの匿名性廃止の法制度化と子の出自を知る権利を巡る課題について検討する。特に法制度化前にドナーの匿名性のもとに生まれてきた子の出自を知る権利に焦点を当てて、子、家族、そしてドナーの関係性のなかに潜む問題を、海外、特に生殖補助医療の法制度化の進んでいるオーストラリア・ビクトリア州の事例をもとに分析する。 ビクトリア州では、1984年に世界に先駆けて生殖補助医療を包括的に規制する法律を制定して以降も、法改正が繰り返し行われ、先駆的・革新的な試みがなされているが、法制度化前に生まれた子は、ドナーの匿名性のもとに生まれており、出自を知る権利は認められていない。このようにドナーの匿名性のもとに生まれ、出自を知る権利が認められない状況をどのように考えるべきなのか。2012年3月にビクトリア州の法改正委員会は、ドナーの匿名性のもとに生まれた子の出自を知る権利を遡及的に認める法律を導入するよう勧告する報告書を議会に提出している。そこで、25年度はドナーの匿名性のもとに生まれた子の出自を知る権利を巡る問題について、法改正委員会の勧告を中心に調査・分析を行い、次年度の研究に向けての基礎付けとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度は、オーストラリア・ビクトリア州の法改正委員会の勧告(ドナーの匿名性のもとに生まれた子の出自を知る権利を遡及的に認める勧告)を中心に、子の出自を知る権利を巡る課題について調査を行った。特に、州法改正委員会の勧告内容や、勧告に至る背景、さらに勧告に対する社会的反応を調査・分析して報告した。 研究内容は、家族社会学会において「生殖補助医療によってドナーの匿名性のもとに生まれた子の出自を知る権利を巡る取り組みと課題」の演題で学会発表した。また、日本保健医療社会学会において論文「生殖補助医療の法制度化において『取り残された子』の出自を知る権利―オーストラリア・ビクトリア州の新たな試み―」を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
ビクトリア州政府は、法改正委員会の勧告に対して、2012年に10月に中間報告を行った。中間報告では、匿名性の保障のもとに配偶子を提供したドナーの意見が十分には得られていないとして、さらにドナーの意見を中心に調査をしたのち、2013年8月に法改正委員会の勧告に対する最終回答を行った。26年度は、州政府の回答を中心に、ドナーの匿名性のもとに生まれた子の出自を知る権利を遡及的に認めることについて、特に、これまで匿名性のもとに顕在化されていなかったドナーの意見をもとに、その問題点を探る。 この課題は、ドナーの匿名性のもとに人工授精によって生まれた多くの子を持つ日本においても今後検討すべき課題であり、ビクトリア州の事例分析に基づく研究は、今後の日本の法制度化における一つの指標になるものと考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初購入予定で見積もりを出していた物品が、年度内には入手困難であったため、次年度に発注することとした。その結果、次年度使用額が生じることとなった。 25年度購入予定で、未購入となった物品は26年度に購入する。26年度は、これまでの研究成果を踏まえ、国際学会での発表を行う予定である。また、オーストラリア・ビクトリア州における学会への出席と資料収集のため、旅費等の経費が必要となる。本研究では、ビクトリア州をはじめとする海外の事例研究を中心としているため、文献・資料収集、及びその調査・分析を行うための費用が必要となる。
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