2014 Fiscal Year Research-status Report
肝炎・肝癌誘導因子LTβの発現を制御する高次エピゲノム構造の解析とその臨床応用
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25860543
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
渡邊 丈久 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (20634843)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 遺伝子 / ゲノム / 発現制御 / エピゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
TNF、LTα, LTβ は炎症・組織修復や腫瘍化などの多くの生命現象・病態に関わる代表的な炎症性サイトカインである。なかでもLTβはウイルス感染肝細胞や一部の肝細胞癌で発現を認めるほか、肝特異的にLTβを発現させたマウスで肝炎・肝細胞癌が発生することから、肝炎・肝細胞癌の誘導因子として近年注目されている。 LTβが属するTNFファミリーの遺伝子は、隣接して6番染色体上のTNF/LT遺伝子座に存在し、遺伝子クラスターを形成している。遺伝子クラスターからの発現制御には、CCCTC-binding factor (CTCF) により形成されるDNA制御配列の3次元的な位置関係、言い換えれば、エピゲノム情報である高次クロマチン構造が重要である。 我々はクロマチン免疫沈降-DNAチップ/シークエンスの網羅的解析データに基づき、TNF/LT遺伝子座のCTCFタンパク質の結合部位(TC配列)、および周囲の遺伝子の発現を増強するエンハンサー配列(TE配列)を同定した。またChromosome Conformation Capture (3C) 法を用いて、CTCFを介したDNA制御配列の3次元的な位置関係、すなわち高次クロマチン構造が、肝細胞におけるTEエンハンサーとLTβプロモーターとの相互作用を制御し、LTβの発現調節に重要な役割を果たすことを明らかにした。しかし、これら高次クロマチン構造などのエピゲノムを変化させるメカニズムは未だ不明である。そこで本研究では高次クロマチン構造の変化に関与しLTβ 発現を制御する分子メカニズムを明らかにし、新規病態診断法の開発や、LTβ 遺伝子発現の調節を目的とした“エピジェネティック治療薬”の開発を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.高次クロマチン構造変化のメカニズムの解明 抗CTCF抗体を用いて荷電および質量によるタンパク二次元電気泳動法であるAuto-2D法、およびプロテオミクスを用いてCTCFの翻訳後修飾を網羅的に解析した。また、定量的逆転写PCR法および3C法用いて、NFκB、PARPなど複数の因子の阻害薬や刺激物質がTNF/LT遺伝子座の高次クロマチン構造や遺伝子発現パターンに影響を与えていることを明らかにした。特に、CTCFのpoly(ADP)リボシル化酵素であるPARPを阻害することによりLTβ発現が変化することを見出したことは、クロマチン高次構造を変化させることによりLTβ発現を変化させた新たな知見であり、高次クロマチン構造を制御しLTβの発現を調節する“エピジェネティック治療薬”の足掛かりとなりうると考える。 2. 高次クロマチン構造に影響を与える因子の検索 培養細胞を用いて持続的な炎症刺激によりNFκBの持続活性化を伴う場合の高次クロマチン構造への影響を検討した結果、追加刺激に対する反応および高次クロマチン構造の変化パターンが異なることが分かった。さらに阻害薬やsiRNAによるノックダウンを用いてNFκBの活性化を阻害すると、LTβ発現が抑制された。この結果より慢性炎症からのNFκBを介したpathwayの持続的活性化が高次構造の変化のトリガーとなる可能性が示された。現在更なる解析を進めている。 3.慢性肝疾患におけるLTβ発現の検討 肝臓の組織アレイを用いて免疫染色により様々な肝病態におけるLTβ発現を検討した。その結果、脂肪肝炎など炎症を伴う一部の脂肪肝組織でもLTβが発現することを見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
<慢性肝疾患からの肝発癌におけるLTβの関与の検討とin vivo 3C解析> ウイルス性慢性肝炎や脂肪肝炎におけるLTβ発現とクロマチン高次構造の分子メカニズムの解析を行う。ウイルス性肝炎についてはHCVコアタンパクを強制発現させた細胞やNTCP蛋白を発現させることによりHBVの感染を可能にしたHepG2細胞を用いて行う。また、脂肪肝炎に関しては培地に脂肪酸を添加し細胞内に脂肪滴を蓄積させた後、LTβ発現の変化を定量的RT-PCRにて解析する。また、臨床の肝生検検体を用いてin vivoにもそのメカニズムが適用可能か検証する。In vivoの3C解析についてはマウスを用いて行い、必要に応じヒト用3C primerが適用可能なTNF/LT 遺伝子座をヒト化したトランスジェニックマウスを使用する。 <exosomeを用いた肝LTβ発現の非侵襲的解析の検討> LTβの発現解析には、その膜結合型サイトカインとして局所的に作用するという特徴の為、侵襲的に肝生検を行う必要がある。その問題をクリアするため、既に肝生検を行いLTβの発現状況を確認した患者の保存血清よりexosomeを抽出し、可溶化した後、抗LTβ抗体を用いてWestern Blotting を行いLTβの発現が検出可能であるか検討している。予備実験ではexosome内にLTβが検出されることを見出しており、非侵襲的にLTβの発現が定量できる可能性が示唆される。現在、exosomeより検出されたLTβが生検サンプルを用いた免疫染色の結果と相関があるか、症例数を増やして解析中である。相関が得られれば、肝生検によらないLTβの発現確認法、“Liquid biopsy”としての応用が期待される。
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Causes of Carryover |
LTβを介した肝炎、肝発癌の分子メカニズムは多岐にわたり、平成25年度、26年度の2年間のみでは研究が遂行できない。特にin vivo 3C法の開発は時間を要する。そのため当初の計画に基づき、分子基盤を複数の手法を用いて同時進行で解析していく必要がある。また効果的な臨床応用の為には、侵襲的である肝生検を用いないLTβ発現の検出法の開発が必要である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでの研究経過より、LTβの活性を規定する候補分子は炎症に関するもの、およびクロマチン高次構造に関わるものであることが明らかになった。そのため、候補分子の機能を多面的に解析し、より効率的な機能解析を行う予定である。また生体における非侵襲的なLTβ発現の検査方法としてexosome が抽出物が応用可能か、解析を行っている。
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Research Products
(10 results)