2013 Fiscal Year Research-status Report
シグナル指向的リン酸化プロテオーム解析による動脈硬化発症の分子ネットワークの同定
Project/Area Number |
25860631
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
八木 寛陽 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 特任研究員 (60633691)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 動脈硬化 / プロテオーム解析 / 分子ネットワーク解析 |
Research Abstract |
動脈硬化症は大動脈瘤や脳血管障害などの主因であり、現在、動脈硬化発症を直接抑制する治療法の開発が強く望まれている。本研究は、動脈硬化発症の根源となる炎症誘起に関わる分子ネットワークを明らかにし、その制御標的タンパク質を同定することを目的とする。 本目的達成のため、動脈硬化性疾患の中でもヒト検体由来の血管組織レベルでの解析が可能な動脈硬化性胸部大動脈瘤を対象として、プロテオーム解析およびトランスクリプトーム解析を実施した。組織構造が保持され、瘤形成が起こっていない瘤部周辺の非病変部の組織を用いて、非血管患者由来の対照大動脈との比較解析により、ヒト動脈硬化症において実際に変動することが示唆されるタンパク質508個を同定した。その中にはマクロファージを介した炎症惹起に関わるタンパク質やoxLDLに応答して変動するタンパク質も含まれていた。さらにトランスクリプトーム解析からも炎症に関わるサイトカインなどの増加が著しく、炎症惹起に関わる分子ネットワークに注目する重要性が示された。 動脈硬化症のモデル系としてVSMC(ラット由来平滑筋培養細胞)に対するプロテオーム解析およびHAMMOC法によるリン酸化プロテオーム解析手法を確立し、約1300個のタンパク質と184種のリン酸化ペプチドを同定した。また、動脈硬化誘発因子oxLDLによるERKのリン酸化およびその基質タンパク質のリン酸化変動の刺激依存的および経時変動を確認した。 現在、刺激依存的なプロテオームおよびリン酸化の変動を解析しており、ヒト組織で明らかにした動脈硬化との関連が示唆されるタンパク質変動と併せて解析する事で、動脈硬化症に関与する分子ネットワークの解明が期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
動脈硬化症は、マクロファージやVSMCの相互作用および慢性的な炎症が起因と考えられており、本研究では、動脈硬化症において変動する炎症惹起に関わる分子ネットワークを明らかにすることを目的にしている。これまでに、ヒト検体の中で、唯一動脈硬化症の解析が可能な大動脈瘤人工血管置換術由来の血管組織を用いて、プロテオーム解析を実施した。その結果、マクロファージを介した炎症惹起に関わるタンパク質やoxLDLに応答して変動するタンパク質を含む、タンパク質を508個同定している。また、トランスクリプトーム解析からも、炎症惹起に関わるサイトカインなどの変動を特定している。このように、動脈硬化症に関連し、ヒトで実際に変動する分子ネットワークの構築に不可欠な情報が得られている。 さらに、VSMC(ラット由来平滑筋培養細胞)からのタンパク質抽出、還元アルキル化、トリプシン消化やHAMMOC法によるリン酸化ペプチドの濃縮に関する条件検討を実施した。これまで血管平滑筋細胞からのリン酸化プロテオームの報告例はないが、25年度における研究で、血管平滑筋細胞からのプロテオーム、リン酸化プロテオーム解析による変動解析手法を確立した。平成26年度の研究で、動脈硬化症に関連する刺激に応答して変動するタンパク質、リン酸化部位の網羅的な変動解析を実施可能とした。 上記の事から、当初の計画どおりに研究を進展させていると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
VSMC(ラット由来平滑筋培養細胞)に対し、oxLDL刺激などの動脈硬化症に関連する刺激を加え、プロテオームやリン酸化部位の変動を解析し、リスト化する。さらに、炎症を誘起する主要キナーゼMAPK(ERK, JNK, p38)をモデルに、シグナル指向的リン酸化プロテオーム解析法の方法論を開発する。キナーゼの厳密な基質特異性に基づくモチーフ認識抗体を用いて免疫沈降を行い、MAPKによるリン酸化を受けたペプチドを特異的に濃縮し、LC-MS/MS解析で同定する。炎症誘起分子ネットワークの情報伝達や制御に関わるタンパク質を同定し、新しいネットワーク構成タンパク質や相互作用関係を包括的に見出す。 シグナル指向的リン酸化プロテオーム解析で同定した、分子ネットワークの情報伝達や制御に関わるリン酸化タンパク質を起点とし、リン酸化プロテオームで同定した情報伝達を担うリン酸化タンパク質を統合する。さらに、リン酸化タンパク質の中で、タンパク質の発現に関与するタンパク質を選出し、プロテオーム解析で同定した変動タンパク質群と関連づける。ヒト検体の解析から同定した変動タンパク質や炎症惹起に関わるサイトカイン刺激との関連を含めて動脈硬化症に関連する分子ネットワークを推定・構築する。 酵素活性や相互作用により他のタンパク質の活性を制御し、多くのタンパク質と相互作用するタンパク質を基準として、構築した分子ネットワークの制御中心として機能し得る標的タンパク質を選定する。培養細胞における標的タンパク質の発現抑制、活性制御を行い、推定した分子ネットワークのリン酸化および炎症の誘起に直接関与するタンパク質の変動を定量PCR法やウェスタンブロッティング法などにより測定する。これにより、分子ネットワークを検証し、制御可能であることを確かめる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ヒト組織における動脈硬化症による変動解析を実施したため、シグナル指向的リン酸化プロテオーム解析手法の実施が遅れた。このため、25年度の経費の一部を26年度に使用することとした。 炎症を誘起する主要キナーゼMAPKをモデルに、シグナル指向的リン酸化プロテオーム解析法の方法論開発に使用予定。キナーゼの厳密な基質特異性に基づくモチーフ認識抗体を用いて免疫沈降を行い、MAPKによるリン酸化を受けたペプチドを特異的に濃縮し、LC-MS/MS解析で同定する。配列情報に基づいてキナーゼによるリン酸化の有無を精査・判定する。炎症誘起分子ネットワークの情報伝達や制御に関わるタンパク質を同定し、新しいネットワーク構成タンパク質や相互作用関係を包括的に見出す。
|
Research Products
(2 results)