2013 Fiscal Year Research-status Report
遺伝子改変マウスを用いたプラスミノーゲン栃木変異と血栓症の検討
Project/Area Number |
25860801
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
田嶌 優子 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 流動研究員 (10423104)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | プラスミノーゲン / 線溶 / 静脈血栓症 / 肺塞栓 / プラスミノーゲン栃木変異 |
Research Abstract |
プラスミノーゲン栃木変異(A620T変異)は日本人の静脈血栓症患者に同定され、血液中の線溶因子プラスミンの活性低下をひきおこす。当研究室では、この変異に相当するプラスミノーゲン-A622T変異のノックインマウスを作製した。本研究では、本変異と静脈血栓症発症との関連を明らかにするために、プラスミノーゲン栃木変異ホモ接合体マウスの血栓形成能を野生型マウスと比較検討している。 本変異マウスから血液を採取し、血栓性状を解析した。血漿プラスミン活性は野生型マウスの約8%に低下しており、マウスでも本変異が活性低下をもたらすことが確認された。また、血漿プラスミノーゲン抗原量は野生型の約50%に低下していた。 静脈血栓症に対する本変異の影響を調べるため、急性肺塞栓誘発モデル及び電気刺激誘発深部静脈血栓症モデル実験を行った。まず、マウスの下大静脈から組織因子を投与して急性肺塞栓を誘発し、生存率および肺血管の閉塞レベルを比較した結果、本変異マウスと野生型マウスで症状に有意差は見られなかった。次に、マウスの下大静脈に電気刺激を与えて血管内皮細胞を活性化させる深部静脈血栓症モデルを用いた検討を行った。このモデルでは、血流下に緩やかに静脈血栓を形成させて、その血栓の大きさを解析できる。しかし、このモデルにおいても変異マウスと野生型マウスの症状に違いは認められなかった。したがって、日本人に高頻度に見られるプラスミノーゲン栃木変異は、マウスでもプラスミン活性を著しく低下させるが、静脈血栓症重症化の原因とはならないことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究実施計画に基づき、プラスミノーゲン-A622T変異(ヒトA620T変異に相当)のホモ接合体マウスの血栓形成能を調べた。ヒトと同様にマウスでも、本変異により血漿プラスミン活性が低下することが明らかになった。また、ヒトの変異保有者とは異なり、マウスでは血漿プラスミノーゲン抗原量が低下することが明らかになった。 本変異マウスの静脈血栓塞栓形成能を調べるため、組織因子投与による急性肺塞栓誘発モデルおよび、電気刺激誘発深部静脈血栓症モデル実験を予定通り実施した。これらの実験から、プラスミノーゲン栃木変異はホモ接合体となってもマウスの静脈血栓塞栓症状を悪化させないことが明らかとなった。 また、研究実施計画に沿って、プラスミノーゲン栃木変異マウスと、凝固制御因子の一つであるプロテインS徳島変異(K196E変異)マウスおよび、プロテインSへテロ欠損マウスを交配させ、二重変異マウスを作製した。いずれも生殖能力は正常で、発育異常も観察されていないため、当初の予定通り、平成26年度の実験に使用できる。 以上のように、当初の計画に沿ってほぼ順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の実験結果から、プラスミノーゲン栃木変異マウスでは、血漿プラスミン活性が低下し、プラスミノーゲン抗原量も低下することがわかった。ヒトの本変異保有者では、活性のみが低下し、抗原量の明らかな低下は報告されていないため、ヒトとマウスで変異の影響が部分的に異なる可能性が考えられる。そこで、プラスミノーゲンの主要産生組織である肝臓からRNAを抽出し、定量RT-PCRにより本変異マウスのプラスミノーゲンmRNA発現量を解析する。また、血漿サンプルのウエスタンブロット解析により、栃木変異型プラスミノーゲンの分子量に異常が無いか、プラスミンへの変換が正常に起こるかについても確認する。変異マウスではプラスミン活性低下により、血漿中に生じたフィブリン塊の溶解活性が低下しているか確認する。 平成25年度の検討から、プラスミノーゲン栃木変異は単独ではマウスの静脈血栓症状に影響しないことが明らかになった。しかし、本変異とプロテインS徳島変異の両方をもつ重症静脈血栓症患者が見つかっていることから、プラスミノーゲン栃木変異は、他の血栓性素因による症状を悪化させる修飾因子として働く可能性が考えられる。この点を検討するため、平成25年度に作製した二重変異マウスの血栓症症状の解析を行う。 また、プラスミノーゲン欠損マウスでは、創傷治癒が遅延することが報告されており、プラスミノーゲンは組織修復にも重要であることが明らかにされている。プラスミノーゲン栃木変異マウスでは、プラスミン活性が低下することから、同様の症状が顕れる可能性がある。そこで、皮膚創傷治癒モデルを用いて、傷口の治癒経過を観察し、本変異が組織修復に及ぼす影響を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究実施計画に基づいて研究を進めており、経費の支出額もほぼ当初の予定通りであったが、少額の繰越金が生じた。 繰越金は、平成26年度の消耗品費に充てる。
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Research Products
(5 results)