2013 Fiscal Year Research-status Report
癌微小環境で産生されるMFG-E8を分子標的としら新規 抗腫瘍免疫療法の開発
Project/Area Number |
25861187
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
柳本 喜智 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (70645085)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | MFG-E8 / 食道癌 / 化学療法 / 腫瘍浸潤マクロファージ |
Research Abstract |
癌組織内に存在する腫瘍浸潤マクロファージがMFG-E8 を産生し、癌幹細胞に作用することで癌幹細胞維持シグナルが引き起こされ、化学療法耐性の原因になっていることが明らかになっている。このMFG-E8 の作用は癌幹細胞に特異的な作用であるが、その特異性のメカニズムは不明である。そこで、本研究では、MFG-E8 の受容体であるインテグリンαVβ3 に焦点をあて、MFG-E8 の癌幹細胞に対する特異的作用機序の解明を行うこととした。 腫瘍浸潤マクロファージからのMFG-E8の発現は明らかになっているが、食道癌細胞からの発現は証明されていない。平成25年の研究計画として食道癌切除標本を使用し、抗MFG-E8抗体を用いた免疫染色で癌細胞、間質でのMFG-E8発現を調べ、その発現と食道癌の臨床病理学的因子との関係を検討することとしていた。術前化学療法施行・非施行例を合わせた160例で免疫染色を行った結果、癌細胞と間質でのMFG-E8の発現を比較すると、癌細胞において優位な発現が見られ、腫瘍浸潤マクロファージに比して癌細胞においてMFG-E8が多量に発現していることが示唆された。またMFG-E8強発現群とそれ以外の群とで予後を比較したところ、強発現群において有意に予後の短縮が見られた。 また術前化学療法施行例84例と非施行例76例を比較したところ、化学療法施行例においてMFG-E8強発現群の率が有意に高かった。さらに術前化学療法非施行例においてはMFG-E8強発現群とそれ以外の群で予後に差は認められなかったものの、術前化学療法施行例おいてはMFG-E8強発現群で有意に予後が短縮した。これにより、化学療法後に遺残した食道癌細胞はMFG-E8を強く発現する傾向があり、予後の悪化に関与している可能性が示唆された。 MFG-E8は化学療法抵抗性の原因の一つと考えられ、これを標的とした治療の開発が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初はMFG-E8が癌幹細胞の維持にいかに関与しているか確認する実験を行う予定であった。このメカニズムを明らかにするにあたって、MFG-E8の受容体であるインテグリンαVβ3の発現に焦点を当て、実験計画を立てていた。具体的には癌幹細胞と非癌幹細胞を分離し、それぞれにMFG-E8を投与して癌幹細胞の比率の変化を見る実験、癌幹細胞と非癌幹細胞におけるインテグリンαVβ3の発現を比較する実験、それぞれの細胞を抗がん剤に暴露しインテグリンαVβ3の発現変化を見る実験等を検討していた。 しかし前述した様に、臨床検体の食道癌細胞でMFG-E8の発現が見られるとともに、その発現が食道癌患者の予後に関与するという結果が得られた。また術前化学療法施行例では非施行例に比べてMFG-E8の発現比率が有意に増加していることも分かった。以上の知見を得た上で、当初予定していたMFG-E8と癌幹細胞の維持の関係や、インテグリンαVβ3の発現を検証する実験を進める前に、癌細胞が発現しているMFG-E8が癌細胞の増生や化学療法抵抗性にいかに関与しているかをin vitroで検証することが必要であると考えた。 現在食道癌細胞株を各種抗がん剤に暴露し、経時的にMFG-E8の発現変化を確認する実験を行っている。具体的には暴露後24、48、72時間後に細胞を回収し、RT-PCRとウエスタンブロットでMFG-E8の発現量を評価することとしている。また食道癌細胞株のMFG-E8をノックダウンし、細胞の増殖能の変化、抗がん剤への感受性の変化を評価する実験も計画している。通常の細胞株でのMFG-E8の働きを評価した上で、癌幹細胞での働きを評価する実験に進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
食道癌抗がん剤耐性株を作成し、MFG-E8の発現を評価する予定である。抗がん剤耐性株では通常株に比してMFG-E8の発現が増強していることが予測される。また前述の各種抗がん剤暴露下でのMFG-E8の発現変化を抗がん剤耐性株でも評価する予定である。さらに通常の食道癌細胞株、抗がん剤耐性株のMFG-E8を、siRNAを導入してノックダウンし、細胞増殖能、抗がん剤感受性を評価する。MFG-E8がノックダウンされた株では細胞増殖能が低下し、抗がん剤に対する感受性が増強することが予測される。さらにMFG-E8が抗がん剤耐性をもたらすメカニズムを解明する実験も計画している。過去の論文では、メラノーマで発現しているMFG-E8はAkt経路を活性化して抗アポトーシス効果をもたらし、Twist、Snailといった転写因子を活性化してEMTを誘導すると報告されている。また大腸がんの癌幹細胞ではStat3が活性化されて抗がん剤耐性がもたらされているとの報告もある。食道癌細胞でもMFG-E8が同様のpathwayを活性化しているかを検証する。食道癌細胞株にMFG-E8のsiRNAを導入してノックダウンした上で、リン酸化されたAkt、Stat3の発現、twist、snailの発現変化をウエスタンブロットで確認する。またフローサイトメトリーでE-カドヘリン、N-カドヘリンの発現変化を確認し、MFG-E8のEMTへの関与を確認する予定である。抗癌剤暴露によりMFG-E8の発現変化はin vivoで検証する実験も計画している。免疫不全マウスにヒト細胞株を移植し、CRにならない程度の抗癌剤投与を行った後、腫瘍でのMFG-E8の発現をRT-PCR、免疫染色で確認する予定である。研究を遂行する上で問題が生じた場合は、共同研究を行っている東京大学医科学研究所の田原秀晃教授に随時指導を受ける予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度必要な物品などを購入し終わったため。 来年度に必要な物品を購入するため。
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