2013 Fiscal Year Research-status Report
精子幹細胞の機能解析による造精機能障害の発症メカニズムの解明と不妊治療への応用
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25861436
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
阪野 里花 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (20600753)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 精子幹細胞 / 造精機能障害 / 男性不妊症 |
Research Abstract |
本研究は精子幹細胞(spermatogonial stem cell; SSC)の機能解析を行い、初期精子形成の機序を明らかにすることで男性不妊症の治療成績を向上させるための研究である。実際には私たちがこれまでに開発してきた造精機能障害モデル動物(停留精巣ラット)とヒト停留精巣検体用い 、精子幹細胞関連遺伝子の発現異常と造精機能および妊孕性への影響を検討している。 これまでに研究1.「造精機能障害における精子幹細胞活性の検討」、研究2.「造精機能を制御する遺伝子群の検討」を行ってきた。具体的に研究1では、造精機能障害を呈する代表的疾患である停留精巣を対象疾患とし、モデル動物とヒト検体を用いることでSSCの幹細胞活性と、それが精細胞分化に及ぼす影響を検討した。その結果、幼若な精細胞であるA型精原細胞が、自己複製能・多能性・未分化性の維持を保持した精子幹細胞であること、精子幹細胞活性の評価に、精子幹細胞関連遺伝子であるUTF1が有用な指標であることを明らかにした。また、精子幹細胞には活性型と潜在型の2タイプが存在し、その比率のバランスが初期精子形成に重要であることを突き止めた。さらに停留精巣では精子幹細胞の機能が低下していることを解明した。これらのことから、幹細胞活性の観点で造精機能障害を検証する有用性を示すことができたと考える。研究2では、造精機能障害精巣を用い、PCR-Subtraction法によりSSCにおいて発現変化する遺伝子群の抽出を行った。さらに一部でMicroarray解析も追加し、スクリーニングを徹底した。これらの遺伝子群について定量RT-PCRやWestern Blotting、免疫染色をおこない発現量や局在を検討した結果、UTF1以外にEEF1A1,TPT1,FOXO1が精子形成に重要な遺伝子である可能性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本検討では、造精機能障害を呈する代表的疾患である停留精巣を検討対象とした。停留精巣モデル動物は妊娠ラットに抗アンドロゲン剤であるフルタミドを投与することで作成するが、作成成功率は90%以上と安定している。また実験動物や薬剤の確保も常時可能な体制を築けている。さらに病院施設ではヒトの男性不妊症、停留精巣などの手術を積極的に行っており、生検検体も安定して確保が可能である。 私たちはこれまでに停留精巣モデル動物を用いた組織学的な研究を繰り返し行っており、初期精子形成障害が生ずる時期を同定している。さらに精子幹細胞活性を検討するためのマーカーとして用いたUTF1も種々の検討で有用性を示してきた。 造精機能障害にみられる遺伝子変化を網羅的に解析するために行ったPCR-Subtraction法によるスクリーニングは当施設で繰り返し施行した実績をもつ。今後の方策としてスクリーニングを厳密にするためMicroarrayでの検討を追加することを考えている。 スクリーニングにより得られた遺伝子を精子幹細胞培養細胞に導入する手技としてアデノウィルスベクターを用いたトランスフェクションを予定している。この実験手法は当施設で精巣において特に有用な方法であることを報告してきており実績がある。 以上のことから本研究はおおむね順調に経過していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究3.「精子幹細胞の培養系の確立と造精機能を制御する遺伝子群カスケードの解明」を進める。まず、精子幹細胞の培養系の確立を目指す。これまでに私たちはラット精巣では生後9日前後に精子幹細胞が出現することを確認している。そこで本来であれば同日齢で幹細胞の分離培養を行いたいが、幹細胞の絶対数が少ないため困難であった。そこでまず成体期のラット精巣を用いて培養系の確立を目指す。具体的には、摘出精巣をホモジネートして細胞を分散させ、まずI型コラーゲンを使用して精子形成細胞を回収する。次にラミニンに精子幹細胞を接着させることで、高率に精巣幹細胞を分離回収することを考えている。c-kit、Oct4、Ngn3等幹細胞表面マーカーの発現解析で幹細胞の確認を行う。安定した培養手技を確立できれば、幼若期精巣もしくは胎生期精巣で同様の培養を行う。 続いて候補遺伝子の発現量の確認と機能解析を行う。具体的には正常精巣と造精機能障害精巣でそれぞれ幹細胞培養し、その2者間でPCR-SubtractionもしくはMicroarrayを行うことで精子幹細胞特異的な遺伝子発現変化のスクリーニングを行うとともにこれまでに得られた遺伝子群との一致性を検討する。これらについて、精子幹細胞の培養系を用いて、目的タンパク質発現ベクターを作成し、培養細胞へ遺伝子導入させ、強制発現およびsiRNAを用いたノックダウンを行い、精細胞分化を検討する。なお精巣への遺伝子導入は、精細胞系とセルトリ・ライディッヒ細胞に選択的に行えるアデノウィルスベクター法を用いたトランスフェクションを行う。ここまでで明らかとなった遺伝子についてモデルラット精巣およびヒト不妊症精巣においてin situ hybridizationや免疫染色を行い、臨床的な造精機能障害のマーカーとなるかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では全行程において停留精巣モデルラットの精巣検体が多く必要とされる。Microarrayなどのスクリーニングを追加で施行することを考えており、同行程の前に必要とされる実験行程に用いる多種類の精子幹細胞マーカーの抗体やプライマーを決定するための予備実験を行っている。絞り込みをさらにすすめているが多くの費用が必要となるステップの前段階であり、結果として次年度使用額が生じた。また培養系確立にむけての条件設定を作成中であるが、絞り込みはまだ中途であるため今年度内の予算消化に至らなかった。 停留精巣モデルラットの継続的な作成・飼育・維持に動物購入、薬物購入、飼育費、施設維持費が経費となる。またPCR-SubtractionおよびMicroarrayは委託のみでなく本学共同研究施設の設備の併用を予定している。そのため委託費ならびに設備維持やアップデートおよび試薬の調達などの費用が必要となる。精子幹細胞培養系確立には多種類の抗体購入が見込まれる。またターゲット遺伝子同定後はノックアウト・ノックダウンなどによる機能解析を行うため、その経費が必要となる。
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Research Products
(5 results)