2013 Fiscal Year Research-status Report
口内炎モデルラットに発症する口腔内の痛みとその鎮痛メカニズム
Project/Area Number |
25861760
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyushu Dental College |
Principal Investigator |
人見 涼露 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (70548924)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 口内炎 / 疼痛 / 三叉神経節 / 疼痛関連行動 / 口腔粘膜 |
Research Abstract |
ガン患者における化学療法や放射線療法の副作用として口内炎が挙げられるが,現在,有効な治療法はなく臨床の場において早急に解決すべき問題となっている.しかし,覚醒下動物における口腔内刺激が困難であることなどから,口腔内の痛みに関する動物研究の報告は少なく,口内炎による疼痛発症メカニズムについては現在も不明な点が多い. 本研究は口内炎による疼痛発症メカニズムを解明することを目的とし,平成25年度は,酢酸により惹起した口内炎モデルラットを作製し,下唇粘膜の組織変化,新たに開発したラット覚醒下における口腔内疼痛評価法を用いた機械および化学刺激に対する疼痛関連行動,組織の物質浸透性および三叉神経節細胞におけるチャネル発現について検討を行った. 口内炎作製2日目において,粘膜上皮が剥離し,炎症性細胞が多く浸潤していた.作製5日目には口内炎は消失した.また,口内炎発症2日目において自発的疼痛関連行動が増加し,カプサイシン溶液 (100μM) の口内炎部位への滴下刺激による疼痛関連行動も増加した.あらかじめ,下唇粘膜を安定して露出できるよう処置および訓練を行ったラットの口内炎部へ機械刺激を加えた時の逃避閾値は,口内炎発症2日目以降に低下した.さらに,下唇粘膜深部組織へのfluorogold浸透性および三叉神経節でのfluorogold陽性細胞数は,健常粘膜と比較して口内炎粘膜では増加していた.下唇粘膜支配三叉神経節におけるtransient receptor potential cation channel subfamily V member 1 (TRPV1) 陽性三叉神経細胞数に変化は認められなかった. 以上の結果から,口内炎発症により,自発的または化学的・機械的疼痛感受性の亢進が認められ,その疼痛には粘膜上皮欠損による組織浸透性の増加が関与している可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度は,口内炎モデルラットを作製し,三叉神経節および三叉神経脊髄路核尾側亜核における細胞内タンパク変化および神経活動の変調を検討して,口内炎によって発症する疼痛メカニズムの一端を解明することを予定していた. 実際には,口内炎モデルラットの作製と,自発的・カプサイシン刺激誘発性疼痛関連行動,および直接下唇粘膜へ機械刺激を加えた時の逃避閾値の測定を行い,予想通り,口内炎処置により口腔内疼痛が発症したという結果を得て実験は終了した.そのため,口内炎モデルラットにおいて,疼痛に関与するといわれているTRPV1が下唇粘膜支配三叉神経節細胞において増加するという仮説をたてたが,予想に反してTRPV1陽性三叉神経細胞の発現変化は認められなかった.当初は,その他炎症や疼痛に関与していると考えられている,calcitonin gene-related peptide,substance P,TRPV4 についても検討する予定であったが,現時点では,実験は完了していない.また,それとは別に,口内炎による疼痛発症機序として,粘膜剥離による組織浸透性の増加が関与している可能性を考え,fluorogold の組織深部への浸透性を健常粘膜と口内炎粘膜で比較するといった新たな実験を行った(結果別記).さらに,平成25・26年度に計画していた口内炎モデルラットにおける細胞外電気生理学的手法を用いた三叉神経脊髄路核尾側亜核侵害ニューロン応答の記録に関する実験については,まだ遂行には至っていない. また,当初,口内炎の程度を強くしたモデルとして抗ガン剤の使用を検討したが,本モデルによって十分口腔内に疼痛を生じており,動物個体差は少なく比較的安定した結果が得られていることから,平成26年度の実験もこれまで用いてきた口内炎モデルラットを使用する予定である. 以上のことより,達成度は,やや遅れていると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は,口内炎モデルにおける疼痛抑制と組織治癒促進の2点に焦点を当てて研究を進めていく. カプサイシン受容体であるTRPV1チャネルが,炎症や神経傷害によって発症する痛覚過敏やアロデニアに関与する可能性が以前報告されたが,昨年度の実験結果は予想に反して,口内炎によってTRPV1陽性下唇粘膜支配三叉神経節細胞数は変化しなかった.今回は三叉神経節細胞数をカウントする免疫組織学的方法を用いたが,他の手法を用いたさらなる検討が必要と考えられる.また,他の候補として,機械受容に関与すると考えられているTRPA1やTRPV4についての検討も予定している. さらに,以前,リドカインの誘導体であるQX-314が痛みや温度の受容体であるTRPチャネルを介して長期間の鎮痛作用を示すことが報告されている.TRPチャネルは味細胞や味神経には発現しないため,QX-314は味覚に影響なく口内炎による疼痛のみを抑えられる可能性があることから,本モデルを使用して,鎮痛効果を行動学的に検索する. また,口内炎の疼痛に対する鎮痛方法に加えて,口内炎の治癒に焦点を当てて,皮膚のバリア機能の維持にも関与すると以前報告されたTRPV4の活性について,本モデルを用いて検討する予定である. これらの実験は,臨床で大きな問題となる口腔内疼痛による摂食困難や感覚過敏症に着目してそのメカニズムを解明するものであり,口腔内に発症した感覚異常に対する新たな治療法開発に貢献できると考えられる.
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Research Products
(5 results)