2013 Fiscal Year Research-status Report
歯根膜細胞を利用した歯周組織再生型インプラント開発のための基礎研究
Project/Area Number |
25861901
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Tsurumi University |
Principal Investigator |
山本 竜司 鶴見大学, 歯学部, 助教 (20410053)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 歯周組織再生 / 歯根膜 / 歯槽骨 / セメント質 / インプラント / アパタイトコーティング |
Research Abstract |
現在のインプラントのトラブルの大部分を占めるインプラント周囲炎や上部構造の破折は歯の咬合力が分散せずにインプラント体や歯槽骨に直接伝わることが発症の一因として考えられている。天然歯では歯と歯槽骨の間に歯根膜が存在し、咬合力を分散させる役割を担っている。そのため、歯根膜再生型インプラントの開発はインプラント治療の予後の改善につながると考えられている。 本研究課題ではインプラント素材表面での歯根膜細胞の培養実験や生体への移植実験を通して、歯根膜細胞の性質や分化能を解析し、歯根膜再生型インプラントの開発への可能性を検証することを目的として研究を進めている。本年度は、1.計画書でも挙げていた問題点でもあるインプラント体表面への石灰化誘導について検証、2.ラット脛骨へチタンインプラントを移植し骨再生能の解析、3.酵素消化法で得たラット歯根膜細胞への生理活性物質の影響の解析を行った。 1.現在のインプラント素材の主流であるチタンと次世代の主流と期待されるセリア系ジルコニアの比較を行った。両素材への石灰化誘導への適合性は同程度であり、審美的観点を考えるとジルコニアは優れたインプラント素材と成り得るが、生化学的な観点では有意差はなかった。 2.ラット脛骨へのインプラント移植では糖尿病モデルラットを用い、神経成長因子(NGF)を移植部位周囲に筋肉注射した結果、対照群と比較して優位に骨再生能が高かった。 3.酵素消化法で得たラット歯根膜細胞は軟組織であるにもかかわらず骨系細胞でみられるアルカリフォスファターゼ(ALP)活性が元々高いことが判明した。また、いくつかの生理活性物質を添加することによってALP活性をさらに高めることが出来ることも判明した。しかし、培養細胞の石灰化には至らず、石灰化誘導を阻害するメカニズムの存在が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでもチタンディスクやジルコニアディスク上で細胞を培養し、石灰化を誘導する実験の報告はいくつかあった。今回、上記1.の実験では骨芽細胞様細胞への分化能をもつマウスの筋芽細胞を用いて実験を行い、これまでの報告と同様にチタンやジルコニアのディスク上で石灰化を誘導することが可能であることが証明できた。似たような実験を3.の実験でも行っているが、歯根膜細胞では石灰化の誘導までは行うことができないこともわかった。過去には歯根膜細胞から石灰化まで誘導している報告もあるので、条件を整えれば採取した歯根膜細胞でも石灰化を誘導することは可能であると考えるが、1.の実験で使用した細胞と比較すると、分化の条件に違いがあると推察される。これは歯根膜組織は石灰化しないという健常な生体内で起きている現象をある程度再現できているという点では、採取した歯根膜細胞は生体内での性質をある程度有していると考えられる。 ラットを用いた動物実験でも2.の実験でチタンインプラント体の表面への石灰化誘導に成功している。過去の研究報告でよくつかわれているBMPやTGFとは異なり、NGFを用いて糖尿病ラットの骨再生能を上昇させた。この結果からも細胞の骨芽細胞様細胞への分化は複数のシグナル伝達が関係していることがわかる。今回の実験では歯根膜細胞の移植は行っていないため、インプラント周囲に石灰化物を形成したと細胞は歯根膜細胞ではないが、歯根膜細胞をインプラント体と共に導入した場合、3.の実験で示したように容易に骨芽系細胞へ分化するとは考えにくい。そのため、石灰化を促すような工夫が必要になると考えている。 このように平成25年度に行った実験の結果、本研究課題の目的の1つである歯根膜細胞の基本的性質が多少なりとも明らかになったのではと考える。そのため、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度はこれまでに得られた結果を元に、ラットから採取した歯根膜細胞の石灰化誘導を目指したい。過去の報告ではマウスやヒトの歯根膜細胞を用いて石灰化誘導を報告している研究が複数ある。今回、採取した歯根膜細胞が、石灰化誘導に成功している細胞と性質が異なるのかもしれない。しかし、採取した歯根膜細胞は通常の培養条件(分化誘導をしない条件)でもALP活性が高く歯根膜組織の特徴を有しているため、他組織の細胞の混入は考えられない。 最近いくつかの遺伝子が歯根膜で特異的に高発現しているという報告や、歯根膜細胞への分化誘導に関与しているという報告がある。細胞培養実験ではそれらの遺伝子由来のタンパク質の添加実験や阻害実験を行い、歯根膜細胞への効果を検証していきたい。歯周組織の再生に有利な結果が得られた場合は、順次動物実験への応用を試みる。 また、研究計画書で報告したように骨膜を使用した移植実験では石灰化物を作り出していることも確認できているため、同様の条件で移植実験を行ってみることも計画している。この時、ラットの歯根膜細胞は膜状で採取することが難しいため、一度採取した細胞をシート状に培養し、その細胞シートを用いて実験を行う予定である。また、分化した細胞がドナー由来であることを確認するために、蛍光標識されたラットから歯根膜細胞を採取することも計画している。 昨年度と同じように動物実験と細胞培養実験の結果を相互にフィードバックしながら進めていく予定である。
|
Research Products
(1 results)