2013 Fiscal Year Research-status Report
小児齲蝕の新たな予防法開発へ向けたリスク増悪因子の解明
Project/Area Number |
25862020
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
大原 紫 広島大学, 医歯薬保健学研究院(歯), 助教 (80634469)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 小児齲蝕 / streptococcus mutans / バイオフィルム / 耐酸性能 |
Research Abstract |
齲蝕は,小児歯科臨床において最も多く遭遇する疾患であり,予防法を確立するうえで個人が保有する齲蝕原因菌の性状を把握することは重要である。主要な齲蝕原因菌であるStreptococcus mutans(S. mutans)は,口腔内の様々な環境変化による影響を受けている。今年度,小児から分離したS. mutansの,バイオフィルム内での齲蝕関連遺伝子の発現量と齲蝕重症度との関連を検討した。 小児口腔内より分離したS. mutans (齲蝕高リスク群3株,齲蝕低リスク群3株)を,pH7.0 およびpH5.5 に調整し30 mM sucrose を添加したBrain Heart Infusion(BHI)液体培地を用い,ガラス試験管を水平面に対して30度傾斜させ,37℃で48時間嫌気培養した。培養後,vortex mixer で10秒間振盪して上清を捨て,Tris-EDTA 5 mlを加え試験管壁に付着したバイオフィルムをcell scraper にて回収した。得られたバイオフィルムからRNA を抽出し,S. mutans の不溶性グルカン合成能に関与するglucosyletransferase B 遺伝子(gtf B)および耐酸性機構に関与するF-ATPase のβ-subunit であるatpD を標的とした既知の配列を用いてReal-Time RT-PCR反応を行いmRNA 発現量を測定した。 gtfB のmRNA 発現量は,pH7.0 と比較して酸性環境であるpH5.5 において両群ともに減少したが,齲蝕高リスク群ではpH7.0での約6割の発現量であったのに対し,齲蝕低リスク群では約1割まで減少した。atpD のmRNA 発現量は,齲蝕高リスク群でpH5.5 での発現量は減少しているが,齲蝕低リスク群と比較すると酸性環境下でも多く発現している傾向が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
小児口腔内より分離したS. mutans が形成するバイオフィルム内における齲蝕関連遺伝子のmRNA 発現量と齲蝕重症度との関連を検討することを研究の一つの目的としているが,現在までに,ガラス試験管を用いてバイオフィルムを形成させる実験を遂行することができた。しかし,平成25年度内にフローセルシステムを利用したバイオフィルム形成の実験系を構築する予定であったため,研究の達成度に遅れが認められる。今後,フローセルシステムを利用した実験系を構築し,臨床分離S. mutans の齲蝕関連遺伝子発現量や不溶性グルカン合成能と齲蝕重症度との関連を検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後行うバイオフィルム形成実験において,フローセルシステムを利用した流体での実験系を構築することにより,口腔内の条件に近似させた環境下でバイオフィルムを形成させ,齲蝕関連遺伝子の発現と齲蝕重症度との関連性を検討する。検討する齲蝕関連遺伝子として,これまで検討してきたglucosyletransferase B 遺伝子(gtf B)および耐酸性機構に関与するF-ATPase のβ-subunit であるatpD に加え,quorum sensing 機構に関連する遺伝子を標的とする。また,培養上清からタンパクを塩析し,不溶性グルカン合成能を検討する。これらは酸性環境や糖添加状態など環境を変化させて行い,環境変化により齲蝕関連遺伝子発現量や不溶性グルカン合成能にどのような変化が及ぼされるか検討する。 また,臨床において齲蝕予防の観点から使用されているフッ化物やキシリトールが,S. mutans の不溶性グルカン合成能や耐酸性能にどのような影響を及ぼしているのか検討する。 さらに,バクテリオシンやquorum sensing 機構に関連する抗菌ペプチドをS. mutans に作用させて生じる変化を検討する。 以上の実験から得られた結果と齲蝕重症度との関連性を統計学的に検討し,効果的にS. mutans の齲蝕病原性を低減させる因子を明らかにし,個々の口腔内状況や保有するS. mutans の性状に適応した齲蝕予防法の確立へと発展させていく。
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