2013 Fiscal Year Research-status Report
精神障害者の地域生活支援のための近隣交流スキルの研究
Project/Area Number |
25862224
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
磯村 聰子 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80437623)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 精神障害者 / 近所付き合い / 地域生活支援 / 共生 |
Research Abstract |
本研究の目的は精神障害者の近所付き合いスキルを交流するためのプログラム開発と妥当性の検証である。 25年度は、主として2つの研究を進めた。まず、一つは「精神障害者と住民の近隣交流からみたSC醸成における課題の検討」である。精神障害者と住民の近所付き合いの相違を検討した結果、地域への在住期間が長いほど、精神障害者と住民の近所付き合いに差が認められる傾向にあった。また、精神障害者が、民生委員に生活上の困りごとを相談することができている傾向がみられ、精神障害者にとって身近な存在であることが確認された。一方で、住民は困りごとの内容に応じて相談する相手を選択していることが考えられるが、精神障害者では身近な相談相手が限局されている可能性もあるのではないかと考えた。 二つ目の研究は「精神障害者の地域生活支援からみたソーシャルキャピタル(以下、SCとする)に関する文献検討」である。SCの概念枠組みに沿って精神障害者の地域生活に関する15文献の記述を抽出した結果、サポートによる安心感が精神障害者の地域生活を支えるためのSCであることが示唆された。このサポートには、経済的な支援、食生活といった生活に不可欠な支援の他に心理的なサポートも含まれた。 また、【精神障害者に対する負のイメージ】や【住民とのトラブル】という事例がある一方で、生活の中で自然に【近所の住民による支援】を受けている精神障害者もいた。住民との関係性は精神障害者にとっての生活に影響を与えると考えられる。さらに、【狭い地域での生きづらさ】という家族の実感や【近隣に病気を隠す】という精神障害者の選択もあることを尊重し、本人の意思や地域性に即した支援が必要である。 今年度は、精神障害者と住民の身近な関係醸成の実態を確認することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、精神障害者が日常生活の近所付き合いの中で、社会的スキルを向上させるためのプログラム開発である。 今年度オーストラリアの精神保健の視察を行った。在院期間が日本と比べて短く、地域でのフォロー体制も異なる実態を目の当たりにし、改めて、日本の精神科病院への保護という収容するスタイルが、地域移行する際のハードルを上げていることにも気づかされた。一方で、日本の手厚い精神科医療により社会的入院を余儀なくされている患者にとっては、ある意味安定した生活環境が確保されているという解釈もできる。視察については現在報告書を執筆している。 近所付き合いは、地域組織活動を維持したり、顔の見える距離でお互いの存在を感じながら生活するため、自然に情がわいたり、配慮を言動で示すものである。歴史的な背景として、近所とのお付き合い、3世帯同居が主流であった時代には、日常生活の中で自然に踏襲されてきた社会的スキルである。文献検討により、経済的支援、食生活支援など実質的なサポートも不可欠であるが、何かあった時にサポートを受けられるという安心感が、精神障害者の地域生活を支えていることが示唆された。 研究計画では、本年度支援プログラムの原案作成、教材の検討ということが課題であった。研究仮説として、精神障害者が地域から排除されずに定着するための精神障害者の社会的スキルを持っていると考える。精神障害者が、地域に馴染み、うまく関係を維持することはトラブルや摩擦を未然に防ぐための生活の工夫であり、近所付き合いはそこに位置付けられるという研究の意義が明確になった。その意義を十分生かすため、研究対象、研究場所を再検討している。以上より、研究意義の明確化という意味では順調に進捗している。しかし、研究計画の実施という意味では若干の遅れがあるため、総合的に、「やや遅れている」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在までの達成度を踏まえ、今年度は、精神障害者が近所付き合いの社会的スキルを獲得するものが、プログラムで妥当か、それを実施するのが病院なのかを検証する。具体的には、精神科病棟の入院患者、地域で生活する精神障害者との面接を行い、上記の点について、検討する。また地域で生じる精神障害者と住民との摩擦にも接近するため、保健所保健師と定期的に面接する。もし、そのような事例に出会えれば、研究として取り上げることができるか、保健師とディスカッションを重ねながら検討し、すすめられそうな場合には、研究実施に必要な倫理的な手続きを取る。そして、国内外の精神障害者保健福祉施設への視察訪問を行い、地域とどのように交わり、定着しているか、情報収集する。これらの活動で得たデータを分析し、成果としてまとめ、国内外で発表する。
|
Research Products
(8 results)