2014 Fiscal Year Research-status Report
放射線被ばくが雄性生殖細胞に及ぼす遺伝的リスクの評価
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25870027
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Research Institution | Asahikawa Medical College |
Principal Investigator |
渡部 浩之 旭川医科大学, 医学部, 助教 (90608621)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 放射線 / 精子 / DNA損傷 |
Outline of Annual Research Achievements |
幼若期マウス雄性生殖細胞における放射線感受性を調べるために、妊娠16.5日目の胎仔(妊娠16.5日区)、生後4および11日目の新生仔(生後4日区および生後11日区)の全身に2Gyのγ線を41.1Gy/hの線量率で急照射した。γ線を照射した雄マウスを10週齢まで飼養後、精子を回収し凍結保存した。なお妊娠16.5日区では精子形成が認められなかった。 凍結精子を融解後、体外受精を行い受精卵を作出した。第一有糸分裂中期の染色体を分析したところ、生後4日区、生後11日区の染色体異常率は各々6.3%、3.4%であり、未照射対照群と比較しても差異はなかった。また卵子内での精子核DNA修復を可視化するために、受精後90分の受精卵でγH2AXの免疫染色を行った。精子核に占めるDNA修復領域の割合は未照射対照群、生後4日区、生後11日区で各々0.57%、0.48%、0.73%であり、3群間に差異はなかった。これらの結果から妊娠後期の胎仔における雄性生殖細胞の放射線感受性は非常に高く、2Gyのγ線照射で不妊となる一方で、新生仔へ2Gyのγ線を照射したとしても精子形成に影響はなく、精子の染色体も正常であることが明らかとなった。 次に精子に2Gyのγ線を照射することで精子DNAにダメージを誘起し、それに起因する異常が精子の受精前遺伝学的診断法によって診断可能かを検討した。この診断法では2細胞期胚を使用して分析するため、2細胞期胚の割球に異常を持った染色体が均等に分配されるかを観察した。その結果、分析した2細胞期胚のうち、2割球とも正常なものは57.6%、異常なものは33.3%、正常と異常のモザイクであったものは9.1%であった。2割球とも異常だった2細胞期胚では、2割球とも同じ染色体に由来する異常が観察された。この結果は、一方の割球を分析することで他方の遺伝的構成を予測することが可能であり、放射線が照射された精子の遺伝的リスクの評価おいて受精前遺伝学的診断法が有効であることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
精子の受精前遺伝学的診断法が放射線照射された精子の遺伝的リスクの評価に使えるかを確認する実験で、精子形成が認められた生後4日目および生後11日目の新生仔への2Gyのγ線照射では精子核DNAに異常が見られなかったので、当初の予定を変更して精子懸濁液に2Gyのγ線を照射することでDNAダメージを被った精子を用意した。この処理では過度なDNA障害が誘起されるため、ダメージを受けた精子の産仔への発生を観察することはできなかった。しかし「精子の受精前遺伝学的診断法」により高確率でその異常が検出できることを証明でき、放射線が照射された個体から回収された精子の遺伝的リスクを評価する方法を提示することができた。従って、総合的には順調に進行していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までは妊娠16.5日目の胎仔、生後4および11日目の新生仔の全身に2Gyのγ線を急照射し、その個体から回収した精子を実験に供試したが、今年度は、同時期に400mGy/dayの線量率で緩照射した個体(集積線量:2Gy)から回収した精子を実験に用いる。これらの個体の精子形成の有無・精子の受精能・精子核DNAの正常性を評価し、昨年度までの急照射の結果と比較することで、線量率の違いが幼若期の雄性生殖細胞に及ぼす影響を検討する。
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