2013 Fiscal Year Research-status Report
日本語における漢字・漢文訓読を媒介とした意味借用とその言語接触論的位置づけ
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25870077
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
ジスク マシュー・ヨセフ 山形大学, 理工学研究科, 助教 (70631761)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 意味借用 / 言語借用 / 言語接触 / 日本語史 / 漢文訓読 |
Research Abstract |
平成25年度の研究成果は当初の「研究実施計画」にしたがって、次の3つの項目に分けられる。 【1.漢字を媒介とした意味借用の具体例調査】 具体例調査として「まなぶ」と「まねぶ」の二つの語を取り上げ、これらの語は本来は別語・別義のものであった(「まなぶ」は「学習する」、「まねぶ」は「模倣する」の義だったと推定される)が、漢文訓読において、両語の意味領域をカバーする「学」の字の訓として結びつくことにより、別語意識が薄れ、意味用法が混同されるようになったことを明らかにした。この成果については現在、論文を作成しており、平成26年度中に発表する予定である。 【2.「中世漢字仮名交じり文電子テキストデータベース」の作成】 日本学術振興会特別研究員(DC2)採用時(平成23年4月~平成24年3月)に電子化した『中世の文学』(三弥井書店)所収『雑談集』と『榻鴫暁筆』のフルテキストを校正し、容易に検索がかけられるよう加工した。また、同所収『三国伝記』のテキストを電子化した。 【3.「日本語における漢字・漢文を媒介とした言語借用モデル」の構築】 日本語における漢字・漢文を媒介とした様々な借用形式を網羅し、影響を及ぼす側面(文法形式、造語、意味など)をもとに分類を行った。それぞれの借用形式の特徴と、分類法を模式化した「漢字・漢文を媒介とした言語借用モデル」をポスターでまとめ、日本語学会2013年度秋季大会(10月)で発表した。さらに借用形式の分類を行った上で、借用の動機について検討し、日本語では語彙や意味を始めとし、文法、統語形式にいたる様々な側面において漢字・漢文の影響が見られることは、「定訓」という一字に対する定まった読み方の存在と、孤立語である中国語の品詞の柔軟性によるものであると提唱した。その成果は、日本歴史言語学会2013年大会(12月)及びアメリカ言語学会2014年大会(1月)にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的として、1.漢字・漢文を媒介とした意味借用の特徴と起こりやすい状況の解明と、2.漢字・漢文による言語借用の体系化と諸外国語で見られる言語借用との比較を通した言語接触における漢字媒介借用の位置づけ、という二つのものがある。当初、このうち、平成25年度は1.に注目し、平成26年度以降は2.に注目する予定であったが、2年度目以降から諸外国語との比較を行うためにはできるだけ初年度中に言語借用モデルを構築する必要があることがわかり、当初の計画をやや調整し、初年度から借用モデルの構築を始めた。 借用モデルの構築に集中したため、具体例調査には多少の遅れが生じた。しかし、その代わり、2年度中に完成する予定であった借用モデルが初年度中に完成でき、また、借用モデルや借用の動機について、日本語学会、日本歴史言語学会といった全国大会や、アメリカ言語学会といった海外の大会で発表ができたため、研究はおおむね順調に進展しているといってよいだろう。 「中世漢字仮名交じり文電子テキストデータベース」については、当初、初年度中にアルバイトを4、5名雇用し、600時間ほど作業してもらう予定であったが、アメリカ言語学会での発表を当初より1年間早めた結果、アルバイトの時間を短縮せざるを得なかった。それでも3冊ほど電子化できたので、おおむね順調に進んでいるといえる。 この他に、研究計画とは直接つながらないが、本研究の発展に資するところが大きい仕事として、平成25年から日本語史調査法教科書の執筆と、日本語学研究事典の編集に携わることができた。前者は自らの具体例調査の方法を定めるよい機会、後者はいまだ英訳が存在しない、あるいは定まっていない多くの日本語史・漢文訓読用語を定めるよい機会となり、ともに今後の研究にとって大いに役立つ仕事となった。教科書と事典は平成26年~27年中に刊行される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26~27年度の達成目標を以下の3つとする。 【1.漢字媒介借用モデルと借用動機の論文化】 前年度、学会発表した漢字媒介借用モデルと借用動機を平成26年度中に論文でまとめる。アメリカ言語学会で発表した内容については前年度から論文を書き始めており、現在、もう一人の研究者と編集している日本語歴史社会言語学論文集(英文)で発表する予定である。日本語学会と日本歴史言語学会で発表した内容については、それぞれ日本の全国学会誌や論文集等で発表する。また、当初の研究計画にしたがって、日本語における漢字を媒介とした言語借用と諸外国語における(音声を媒介とした)言語借用との比較を平成26年度から始め、平成27年度中に論文または著書の形でまとめて発表する。 【2.意味借用の具体例調査の増加】 平成26年度からは研究計画調整のため、多少の遅れが生じた具体例調査に注目する。平成26・27年度中にはそれぞれ2~3の語・形式を取り上げ、学会発表あるいは論文の形で発表する。平成26年度は前年度から調査を始めた「まなぶ」・「まねぶ」や、明白な状態をあらわす「あきらかなり」・「あきらかけし」、解説する義をあらわす「とく(説く)」といった啓蒙・学問に関わる語に注目し、平成27年度は律令用語と仏教用語に注目する。 【3.「中世漢字仮名交じり文電子テキストデータベース」の作成】 初年度から始めた「中世漢字仮名交じり文電子テキストデータベース」の作成を平成26~27年度にかけて完成し、平成27年度までにインターネットで一般公開する。平成26年度は『中世の文学』(三弥井書店)所収の漢字仮名交じり文テキストを中心に電子化し、平成27年度は『史記桃源抄の研究―本文篇』(5 冊)(日本学術振興会)と『毛詩抄』(4 冊)(岩波書店)を中心に電子化する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画調整にともなって「中世漢字仮名交じり文電子テキストデータベース」の作成開始がやや遅れ、十分なアルバイトを確保することができなかったため、次年度使用額が生じた。 前年度から繰り越しした額は主にデータベース作成に当てる予定である。平成26年4月の時点ではすでにアルバイトを5名確保しており、平成26年度中には問題なく繰り越しした額が使用し切れると思われる。
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Research Products
(3 results)