2014 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本における〈社会的包摂〉をめぐる歴史社会学的考察-生存権の視点から-
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25870085
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
冨江 直子 茨城大学, 人文学部, 准教授 (20451784)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生存権 / 歴史社会学 / 社会的包摂 / 貧困 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦後日本における「生存権」に関する資料として、1950年代~1960年代を中心に、生活保護の行政および運動をめぐる議論を収集した。この作業と同時に、これらを分析するための枠組みを近代以前も視野に入れた歴史的文脈のなかで検討するため、共同体における生活権や、労働の価値をめぐる問題の変容、コモンズと生活保障の関係などについて学び、「生存権」の概念をより広く捉えることをした目指した。 生活保護法に規定された生活保障の理念を、制度として実践として運用していく役割を担った、厚生省官僚、自治体のケースワーカー、民生委員、そして当事者運動を担った人びとは、戦前・戦中の生活保障の理念や実践からのなんらかの変容を、政治的・社会的状況からの外圧として、あるいは内発的な自己革新として迫られた。その過程で、彼らは生活保護法による生活保障をいかなるものとして解釈し、それをいかなる実践として運用していったのか。そして、こうした人びとによるさまざまな議論や実践の交錯のなかで、個人の「生存権」が保障されるための論理と「場」が、どのように形成されていったのか。戦後改革から1960年代頃までの時期においてこれらの問いを探究することを第一の課題とした。 また、1960年代以降の変化をも視野に入れて分析を行うために、この時代に関する先行研究の検討を進めた。経済成長を経て、貧困という言葉によってとらえられる問題の内容は変化し、「生存権」の概念や理念をめぐる状況も変化していった。この時期の「貧困」や「生存権」の意味づけをめぐる言説実践において、どのような主体が、どのような価値を求めていったのか。こうした問いを念頭におきながら検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦後日本における生存権をめぐる言説や運動についての資料収集を進めるとともに、生存権に広くかかわるものとして、共同体やコモンズをめぐる議論を検討し、これらを有機的に関連づけながら戦後日本の生存権のあり方をどのように描き出していくかを模索中である。
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Strategy for Future Research Activity |
共同体における生活保障と国家による生活保障との関係に着目しながら、戦後日本における生存権の意味を歴史的に位置づけるための分析を行う。生存権が保障される根拠と場が、だれによって、どのように構想され、形成されようとしてきたのかを、生活保護制度をめぐるさまざまな議論や実践から読み取っていく。
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Causes of Carryover |
資料収集の出張の日程確保が難しい時期があったため、図書館等で利用できる文献・資料を利用して研究を行うことが多くなった。そのため資料収集のために必要な旅費などの費用が予定より少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
資料収集をより集中して行うために必要な旅費などの費用と、テーマに関連するより広い分野をも含めた書籍の購入などのために使用する計画である。
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Research Products
(2 results)