2014 Fiscal Year Research-status Report
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25870171
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長谷川 禎彦 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 講師 (20512354)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | システム生物学 / 生物物理 / 確率過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は非定常な環境における遺伝子発現系の影響を,統計的手法によって明らかにするものである.生命システムにおいてはゆらぎの影響は不可避なものであるため,長い進化の過程でゆらぎに対する耐性や,ゆらぎを利用する機構を獲得してきたと考えられる.概日時計は正確に時間を刻む必要があると同時に,外界の光信号(周期的な太陽光)に同期する必要がある.この二つの条件は相反する条件であるが,平成25年度の研究ではこれらの条件を満たす位相応答曲線を求めた.平成26年度の研究ではこの研究をさらに発展させ,概日時計の分子メカニズムの最適性に焦点を当てた.具体的には光入力経路に関する最適性を考え,どのように光入力を行えば前述の二つの条件を最適に満たすことが出来るかを最適化手法によって明らかにした.すべての概日時計は多入力の光入力経路を有するが,現存する概日時計は最適性の条件を満たしていることを示した.また,今まで生物実験によって知られている多くの結果が,同期と正確さという条件に対する最適化によって再現できることを示した.これらの成果を査読付き論文誌(Physical Review Letters)に発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度では,概日時計において正確に時間を刻む能力と外界信号への同期能力に注目し,最適な概日時計の分子メカニズムの設計原理を数理的に解析した.概日時計は複数の光入力パスウェイを持っていることが知られているが,その複数パスウェイがどのように協調することで最適な同期を行うことが出来るかを数理的な方法によって明らかとした.これにより,哺乳類で見られる時間の前進・後退に関与する遺伝子が,最適化の観点からも最適であることを明らかとした.また,数々の生物実験によって得られている結果が,最適化原理によって説明可能であることを示した.平成25年度の研究で,位相応答曲線にはdead zoneと呼ばれる領域が重要であることを示したが,人ではdead zoneは観測されていなかった.なぜ人ではdead zoneが観測されないかを理論的に明らかにし,新たに開発したアルゴリズムによって真の位相応答曲線を推定することで,人においてもdead zoneがあることを初めて明らかとした.これらの結果は国際論文誌において発表された.さらに,平成26年度の計画では,確率微分方程式の解法の開発を予定していたが,実際に確率微分方程式を正規分布の重ね合わせによって解く手法を開発した.この開発した手法に関して国際論文誌に投稿を行い,この成果は平成27年度に出版される予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
概日時計の最新の研究動向を調査し,今までの研究成果を発表するために学会に参加する予定であり,その予算を使用予定である.また,今後も引き続き国際論文誌に投稿する予定であるため,英文校正代が必要である,また採録された場合は投稿料として予算を使用する予定である.数値計算に用いるソフトウェアを最新のバージョンにし,GPUなどの計算ハードウェアを追加で購入する予定である.
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Causes of Carryover |
平成26年3月より現職に着任し,大学よりスタートアップ用の運営費を頂いたため,想定よりも予算が潤沢にあった.そのため,研究に必要な経費の一部を運営費によって支払うことができ,科研費の使用額が想定よりも少額で済んだ.そのため次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度より引き続き,新しい環境での計算機環境の整備を行っている.また,新しい論文の英文校正費や投稿料に予算を用いる予定である.
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