2014 Fiscal Year Research-status Report
記憶学習において働くインスリンシグナル伝達の時空間的動態の解明
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25870172
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
富岡 征大 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40466800)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 記憶学習 / インスリン / PI3キナーゼ / C. elegans |
Outline of Annual Research Achievements |
線虫C. elegansは、飢餓情報と環境に含まれる化学物質の情報を統合し飢餓を経験した環境を避けるという学習行動(飢餓学習)を示す。この学習行動にインスリン/PI3キナーゼ経路が必要であることが明らかになっていた。本研究では、インスリン経路の記憶学習の各過程(獲得・保持・想起)における動態を詳細に明らかにすることを目的とした。 まず、餌の有無に依存して発現量の変化する8種のインスリン様ペプチドが餌の情報を神経系へと伝える役割をもつ可能性を検証した。餌により発現上昇の見られる2種のペプチドを過剰発現させたところ、飢餓時に起こる行動パターンに異常が見られた。更に、そのうち1種のペプチドの変異体においては、満腹時に起こる行動パターンに異常が見られた。以上の結果より、餌の情報を伝え、行動パターンを切り替えるために必要な新規インスリン様ペプチドが明らかになった。一方、これまでの研究から、インスリン様ペプチドINS-1は、餌に依存した発現量変化を示さないが飢餓学習には必要であることが明らかになっていた。INS-1を飢餓条件付け時、若しくは条件付け後の行動時(記憶の読み出し時)に選択的に分泌させたところ、行動時のINS-1の分泌により飢餓条件付け後に特徴的な行動パターンが誘導された。従って、記憶の形成時と読み出し時で異なるインスリン様ペプチドにより学習行動が制御されるというモデルが示唆された。 飢餓学習において、インスリン受容体/PI3キナーゼ経路は化学物質を受容する感覚神経で働く。遺伝学的スクリーニングにより、この経路の下流で働く候補分子を同定した。すなわち、神経で発現するE3ユビキチンリガーゼによる神経機能の調節がインスリン受容体/PI3キナーゼ経路に依存した飢餓学習において働く可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、線虫の示す学習行動において、インスリン経路が記憶学習の各過程(獲得・保持・想起)においてどのような働きをするのかを明らかにすることを目的としている。現在までに、記憶の獲得及び想起に関わることが予想される新規分子を同定し、それらによるインスリン経路に依存した学習行動の制御モデルが明らかになりつつある。今後の研究の推進により、記憶学習の際に働くインスリン経路の時空間的動態が明らかになる見通しがついた。
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Strategy for Future Research Activity |
飢餓経験を外部環境と結び付けて記憶する学習(飢餓学習)に必要であることが明らかになった新規インスリン様ペプチドが学習の成立に必要な飢餓の情報を神経系へと伝える可能性、及びその仕組みを検証し、複数種のインスリン様ペプチドによる飢餓学習の制御モデルを確立する。飢餓学習においてインスリン受容体/PI3キナーゼ経路を介して働く可能性が示唆されたE3ユビキチンリガーゼが機能する神経細胞及び神経機能調節機構を明らかにし、神経可塑性を制御する新たな分子機構を確立する。
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Causes of Carryover |
平成25~26年度にかけて実施した線虫を用いた行動解析により、飢餓学習に関わるインスリン様ペプチド遺伝子を同定した。これらの遺伝子の飢餓条件下における発現パターンの変化を既存の形質転換線虫を用いて行ったが、過去の知見に反して大きな発現変動は観察されなかった。そのため、計画を変更して発現変動を観察しやすい形質転換体を作成し遺伝子発現変動の解析を行うこととしたため未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用経費は、主にインスリン様ペプチド遺伝子の発現変動解析(形質転換体の作成及び発現量解析)に充てる。この解析より、インスリン様ペプチドが飢餓記憶に必要な情報を神経系に伝達する仕組みを明らかにする。また、E3ユビキチンリガーゼの機能解析にもその経費を充てる。以上の研究を遂行する費用に加え、本研究課題の研究成果を国内学会において発表する為にも未使用経費を充てる。
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