2014 Fiscal Year Research-status Report
中国大興安嶺における生業環境の変化とトナカイ飼養民の適応形態:1940-2010
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25870187
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
卯田 宗平 東京大学, 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク, 講師 (40605838)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 地域研究 / 人類学 / 中国 / 環境変化 / 大興安嶺 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、中国の大興安嶺でトナカイ飼養を続けるエヴェンキ族を対象に、①新中国成立前から集団化の時代を経て現在にいたる生業環境の変化と生計維持のメカニズムを明らかにし、②本事例を世界各地のトナカイ飼養の研究成果のなかに位置づけるものである。 平成26年度は研究計画どおり、中国内モンゴル自治区根河市の調査村においてフィールド調査を実施した。調査では、エヴェンキ族らがポスト「北方の三位一体」時代ともいえる現代を生き抜くための飼養技術を検討するとともに,大興安嶺においてトナカイ飼養を可能とする背景要因を考察した。 その結果は以下の通りである。大興安嶺において狩猟,漁撈,交通手段としてのトナカイの飼養という「北方の三位一体」の生業様式を長年続けてきたエヴェンキ族らは,2003年以降,トナカイの飼養のみで生計を維持するようになった。彼らがトナカイ飼養を続けるのは,トナカイの角を採取し,それを販売するためである。つまり,エヴェンキ族らにとってのトナカイは荷駄運搬用や騎乗用としての「生業の手段」から,角を採取するための「生業の対象」に大きく変化したのである。 こうした変化のなか,彼らは新たな技術を導入したり,飼養技術を革新したりすることはなかった。むしろ,彼らは既往の飼養技術を援用することで引き続きトナカイを所有している。彼らがこうした対応を選択できた要因は、①もともと彼らはodachi技術によって馴化個体をつくり,個体を識別していたこと,②トナカイは群れの輪郭が明確でなく,未馴化個体が馴化個体の群れのなかに入り混じること,がおもな理由であることが分かった。これに加えて,大興安嶺で生活をするエヴェンキ族らを支援し,角の商品化を積極的に行ってきた郷政府の役割も重要であり,その背景には郷政府がトナカイ飼養をめぐって観光開発を推し進めていることも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展している理由は、研究のカウンターパートの中央民族大学の教員および現地の地方政府の職員との交渉がうまくゆき現地調査が実施できたことが挙げられる。また、昨年度に引き続き大興安嶺森林地帯における狩猟活動やトナカイ飼養の歴史と現状に精通しているインフォーマントに対する調査がおこなえたことも理由のひとつである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は以下の三点をおこなう予定である。①北欧やシベリアのトナカイ飼養の事例との対比から本事例の固有性と類似性を導き出し、違いを生み出す要因を国家政策や森林制度、生業技術といった側面と関連付けながら考察する。②中国において同じように動物と生きる集団(鵜飼い漁師の事例など)との対比から、生業戦略や動物に対する行動規範の類似性と固有性を導き出し、それぞれの特質を明らかにする。③以上の成果を踏まえ、大興安嶺の資源利用に関する現代的な課題と将来の見通しを導き出す。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた図書が安く購入できたため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額で新たに研究のための図書及び参考書を購入する予定である。
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