2013 Fiscal Year Research-status Report
イスラーム金融におけるイスラーム性形成の実証研究:マレーシアの事例
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25870206
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
福島 康博 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (20598908)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | イスラーム金融 / イスラーム法 / シャリーア / マレーシア |
Research Abstract |
マレーシアのイスラーム金融について、そのイスラーム性のあり方と形成過程とを明らかにすることを目的とする本研究課題のうち、平成25年度においては以下の調査・分析を行った。 まず、イスラーム性を形成する主体である各イスラーム金融機関のシャリーア・ボードの委員について、公開されている情報に基づき各人の氏名や学歴・職歴等の背景に関する調査を行った。調査の結果、全体の3分の2が経済学やイスラーム諸学に関する博士号を保持し、大学教員を兼任している点が明らかとなった。次に、シャリーア・ボードによるイスラーム性形成の法的根拠であるが、平成25年6月に大幅な法改正が行われた。そこで、新たに施行されたイスラーム金融サービス法について調査・分析を行った。この結果、シャリーア・ボードの役割が強化されるとともに、その法的責任がより明確になったことが確認できた。三点目に、イスラーム金融のイスラーム性の体現として、イスラーム金融機関のCSR(企業の社会的責任)活動に着目し、その内容に関する調査・分析を行った。この結果、ラマダーン月に孤児を対象とする寄付活動やイフタール(食事会)の実施など、イスラームによって動機付けられているCSR活動の事例を確認することができ、金融商品・サービス以外でのイスラーム性のあり方を明らかにすることができた。 上記三点の研究分析は、イスラーム金融におけるイスラーム性のあり方とその形成過程のうち、形成主体であるシャリーア・ボードの委員と、形成主体の法的位置づけを明らかにするもの、および形成されるイスラーム性の具体例として、本研究課題の中に位置づけられるものである。 以上の分析は、マレーシアでの現地調査、とりわけ資料収集と聞き取り調査に基づいて行った。また、これら調査・分析の結果は、6回の学会・研究会発表(うち、海外1回、国内5回)で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題で掲げている「研究の目的」のうち、平成25年度で実施した調査・分析によって、イスラーム性の形成主体であるシャリーア・ボードの委員の特徴と、その法的根拠、およびイスラーム性の体現の一端が明らかなものとなっている。これらは、本研究課題に沿って明らかにすべき点であると同時に、平成26年度と27年度に実施する調査・研究の土台を形成するものである。すなわち、本研究課題が目指すイスラーム金融のイスラーム性のあり方と形成過程の解明のうち、その基底部分についてはすでに明らかなものになっているといえる。すでに明らかな点と今後の研究内容との関係性は、次の通りである。 まず一点目として、イスラーム性の形成過程に関する調査・分析を挙げることができる。イスラーム性の形成過程は、本研究課題の最終的な目的の一つであるが、これは各イスラーム金融機関のシャリーア・ボードにおいて、当該イスラーム金融機関のイスラーム性をどのような過程を経て形成しているかを明らかにするものである。これを明らかにするためには、各委員に対するアンケート調査や聞き取り調査が必須であり、実施するためには委員の属性や社会的背景、連絡先等が必要となる。この点については平成25年度の分析によってすでに明らかとなっている。 もう一点は、イスラーム金融とシャリーア・ボードをめぐるマレーシアの行政・司法・立法のあり方や、イスラームに対する社会・世論の動向に関する分析である。平成25年度の調査においては、この具体例としてイスラーム金融をめぐる法規(イスラーム金融サービス法)とCSR活動を取り上げ、その一端を明らかにしている。今後は、こうした事例がマレーシアの公的セクターや、イスラームに対する社会・世論にどのような影響を与えているかを明らかにしていくことを目指すが、その際には、平成25年度の調査・分析内容を基礎的なデータとして用いる。
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Strategy for Future Research Activity |
イスラーム金融のイスラーム性のあり方と形成過程を明らかにするため、平成26年度と27年度は、平成25年度の調査内容を踏まえた上で以下の点について調査・分析を行うこととする。 まず、イスラーム性の形成過程については、各イスラーム金融機関のシャリーア・ボードの委員に対するアンケート調査を実施する。この調査では、委員としての職務やシャリーア・ボードでの経験を尋ねることとする。また、協力が得られれば委員に対するインタビュー調査を行う。量的調査と質的調査を併用することによって、イスラーム性の形成過程を多角的に明らかにすることを目指す。 次に、平成25年度の調査で取り扱ったイスラーム金融サービス法とイスラーム金融機関のSCR活動の分析を踏まえ、これらがマレーシアの行政・司法・立法や、同国のイスラームに関する社会・経済との関係性を明らかにする。具体的には、イスラーム金融機関やマレーシア中央銀行が発行する統計データ、あるいはメディアにおける報道等の分析を通じて明らかにする。また併せて、シャリーア・ボードとその委員に関し、イスラームに基づいた経営や教育のあり方について、イスラーム金融を例としてその現状分析を行うこととする。 以上記した「今後の研究推進方策」は、本研究課題の「研究の目的」と「研究計画・方法」に合致している。すなわち本研究課題は、その研究実施を妨げるような調査実施国や調査対象等の急激な変化が発生しておらず、従って当初より掲げてきた研究の趣旨・目的およびその実施方法に沿って、平成26年度以降も調査・研究を実施していくこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度所要額が130万円であったのに対し、支出額は129万9,224円で、差し引き776円の残金が発生した。当初予定では、物品購入において、全額を使用する予定であったが、割引などが発生し安く購入できたため、結果的に残額が生じた。 25年度に発生たした残額は、26年度の物品費に充てる。
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Research Products
(6 results)