2015 Fiscal Year Research-status Report
イスラーム金融におけるイスラーム性形成の実証研究:マレーシアの事例
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25870206
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
福島 康博 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (20598908)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イスラーム金融 / イスラーム法 / シャリーア / マレーシア |
Outline of Annual Research Achievements |
マレーシアのイスラーム金融におけるイスラーム性とその形成過程を明らかにすることを目的とする本研究課題において、3年目である平成27年度は前年度までの調査・分析内容に基づきながら以下の調査を行うとともに、学会発表を行った。 まず本研究課題の目的の一つである、マレーシアのイスラーム金融におけるイスラーム性の解明について、イスラーム金融サービス法(Islamic Financial Services Act)とこれに基づいて業務を行っているイスラーム金融機関の関係性の調査・分析を行った。同法は、既存のイスラーム金融関連法を統廃合した上で2013年に新たに施行された法律であり、イスラーム金融機関にとっての準拠法である。この法律自体は2013年に施行されたものだが、新法はシャリーア・ボードの権限と責任の強化、新しい金融商品の開発、および合併や分社化を含めた、大幅な業界再編をもたらす内容であった。そのため、内容・対象に応じて同法の適用に数年間の猶予期間が与えられた。この間各イスラーム金融機関は各種の社内改革を継続的に行っているが、新しいイスラーム金融商品の開発などイスラームに関連する業務等は、シャリーア・ボードが主導的な役割をはたしている。 マレーシアの事例の調査・分析と並行して、比較対象としてインドネシアにおけるイスラーム金融の事例の調査・分析を行った。インドネシアの事例については、すでに平成26年度に文献調査を行っていたが、平成27年度においてはジャカルタへ調査に行き、中央銀行や市中銀行での聞き取り調査を行った。この結果、両国の間にはシャリーア・ボードの役割や権限、委員選出などの点で違いが認められた。 以上の調査・分析の結果は、平成27年度中に1回の研究会発表(国内)にて公開するとともに、フルペーパーを1本執筆し、その内容を平成28年度中に学会発表を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の目的の一つが、マレーシアの各イスラーム金融機関がそれぞれ組織しているシャリーア・ボードの役割がイスラーム金融のイスラームの側面に与えている影響を明らかにすることである。この点を明らかにするためには、イスラーム金融機関に関連する法律、これを踏まえたイスラーム金融機関の業務、およびイスラーム金融機関のイスラーム性を担保するシャリーア・ボードの役割の分析が必要である。しかしながら上記「研究実績の概要」で触れたように、イスラーム金融サービス法の施行と数年にわたる適用の猶予期間が設けられたが、これが本研究課題の事業期間3年間に相当した。同法によってシャリーア・ボードの権限と責任の強化される中、猶予期間はシャリーア・ボードも旧法の時代とは異なる判断や経験を積む過渡期となっている。 調査対象がこのような状況にあることと、また知遇のあるマレーシア人イスラーム金融研究者やシャリーア・ボードの委員からの助言を踏まえ、平成27年度に実施する予定であった全イスラーム金融機関のシャリーア・ボードの委員(およそ百数十名)を対象とするアンケート調査を1年遅らせ平成28年度中に実施することとした。これに伴い、本研究課題の事業期間も、1年延長して平成28年度までの4年間とした。 上記以外の調査・分析、すなわちマレーシアにおけるイスラームをめぐる状況や、比較対象としてのインドネシアのイスラーム金融の調査・分析等は、おおむね当初の研究計画通り進んだ。シャリーア・ボードに関する調査、特にアンケート調査に関する研究計画の変更とそれに伴う研究期間の延長は、上述のように研究対象に起因するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」で言及した通り、事業期間を1年延長した平成28年度に実施する研究としては、イスラーム金融機関のシャリーア・ボードの委員に対するアンケート調査を実施する。調査内容としては、(1)国籍、学歴・留学経験、イスラームに関連する職業・ポスト(ウラマー、イマームなど)の経験の有無といった委員のパーソナル・データ、および(2)シャリーア・ボードの活動内容の2点を検討している。過年度の調査において、マレーシアの全てのイスラーム金融機関が擁しているシャリーア・ボードの委員の氏名や連絡先等は、すでに確認が取れている。ただ、日本からアンケート用紙のやり取りを行うのは費用と時間がかかること、またインフォーマントのプライバシー保護の観点から、SurveyMonkey等オンラインのアンケート実施サービスを用いる。また、集計結果の内容を補完するため、短期間のマレーシアへの調査を行い、現地にて聞き取りを行うこととする。 シャリーア・ボードの役割を明らかにした上で、4年間の調査・分析の総括を行う。特に本研究課題の目的であるイスラーム金融におけるイスラーム性とその形成過程に主眼を置いて、イスラーム金融のみならず、マレーシアにおけるイスラームのあり方、行政や立法の動向、およびインドネシアの事例と比較しながら、この目的をはたしていくこととする。
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Causes of Carryover |
イスラーム銀行関係者に対するアンケート調査を、事業期間最終年度である本年度(平成27年度)にマレーシアにおいて実施する計画を立てていた。しかしながら、イスラーム金融に関する法律が大幅に改正され、また施行まで数年の猶予期間が設けられた。これにより、アンケート対象者であるイスラーム金融機関のシャリーア・ボードとその委員に関連する状況が新法に沿って大きく移行しつつある。 研究対象がこのような状況にあるため、研究計画を見直し、事業期間を1年延長して平成28年度中にアンケート調査を実施した方が、新法に基づいた現状をより正確に把握できると判断した。よって、本年度分の直接経費のうち259,550円を次年度の調査研究に使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に発生した残額は、平成28年度の物品費と旅費に充当する。
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Research Products
(1 results)