2013 Fiscal Year Research-status Report
有機材料における高障壁のエネルギーアップコンバージョン
Project/Area Number |
25870212
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
戸谷 健朗 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 技術職員 (50397014)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 光物性 / 燐光 / アップコンバージョン |
Research Abstract |
本研究ではこれまでの研究成果である、常温、常圧下で秒オーダーの長時間にわたって励起子を持続できる系を利用して、光+熱→光への変換である熱エネルギーを利用したエネルギーアップコンバージョンを有機材料のみを主体にめざしてきた。アップコンバージョンとして目標とする初年度のエネルギー障壁は0.4 eV程度とし、またアップコンバージョンの系は励起光を切った後も持続する燐光発光のアップコンバージョンとした。研究実績として、まず、極低温から常温にかけて燐光の発光色が短波長の発光色へと明確に変化する材料系の実現。具体的にはドナー分子からアクセプター分子への燐光のエネルギー移動において、赤色発光から緑色発光へのアップコンバージョンを実現した。この材料系では77Kの極低温時にはドナー分子からの赤色発光のみが観測されていたものが、低温200Kにかけてアクセプター分子の緑色発光が混ざって観測され、常温から高温400Kにかけて明確な緑色発光が観測されるようになった。エネルギーの移動速度はアップコンバージョンよりもダウンコンバージョンの方がはるかに大きかったが、ドナー分子に蓄積された励起子密度が従来の系に比べて1000倍以上と圧倒的に大きかったため、見掛け上、アクセプター分子からの短波長の燐光の方が数倍以上も大きい強度で観測されることとなった。また、この材料系で用いた励起エネルギーは数mW/cm2以下で十分であり、市販の励起用ランプ等の光源で十分観測できるレベルに励起することができた。さらに燐光の観測時には励起光源の光はなくなっているため、発光色の変化を明確に捕らえることができた。 実験後半ではアップコンバージョンのバリエーションとして、黄色の燐光から青緑の燐光へのコンバージョン、また緑色の燐光から青色の燐光へと変化する系を、ドナー、アクセプター分子を組み合わせることで実現できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
設定した初年度の実験計画は、低い励起強度の光源で発現するエネルギーアップコンバージョンおよび、その際の障壁は0.2~0.4 eVであった。また、温度変化に伴うエネルギーコンバージヨンの移動量の制御および、様々な発光色変化の組み合わせ実現させることとした。この計画に対し、比較的順調に研究計画を進められたのは、比較的早い段階でエネルギー障壁0.4 eVである赤色燐光発光から緑色燐光発光へのエネルギーアップコンバージョンを実現できた点にある。これによりこの系での詳細な調査が可能となり、ドナー、アクセプター分子間の励起子密度および、エネルギー移動速度の測定が可能となった。そして、この測定結果を元にドナー、アクセプター分子の濃度および物質量比、また励起波長を変えることで異なる温度で発光色変化が実現するような系の作製に成功した。また、エネルギー障壁0.4 eVが実現できたことにより、異なる色変化のアップコンバージョンは、エネルギー障壁0.4 eV未満の範囲内でドナー、アクセプター分子の組み合わせを変えることで実現できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画は結合型の分子や、励起子衝突を利用することで活性障壁0.6 eVのエネルギーアップコンバージョンをめざすことである。従来型の熱エネルギーを利用したアップコンバージョンでは、ボルツマンの法則からエネルギー移動速度がエネルギー障壁に対して指数関数的に減少してしまうため、温度を上げる方法には理論的に限界がある。一方で、本材料に特徴的である高い励起子密度の状態を利用して励起子どうしを衝突させて起こすアップコンバージョンを選択する方法であれば、光エネルギーを利用できるため、励起光強度しだいでは達成される見込みがある。よって実験計画ではまずレーザーによる強い励起光源を用いた系でおこる、材料内での励起子密度の調査を行いその際の励起子衝突速度を見ることで、活性障壁0.6 eVのエネルギーアップコンバージョンが可能かどうかを見極めていく。また、励起子密度を上げる方法として色素分子の重水素化も試みる。重水素化分子と非重水素化分子でのエネルギーアップコンバージョン速度定数を活性障壁0.2 eV~の範囲で比較し、低い励起光強度の範囲内で生成される励起子密度の増加を調査する。この結果にもとづき高い励起光強度で生成される励起子密度の増加および、励起子衝突速度を算出しながら活性障壁0.6 eVのエネルギーアップコンバージョンが可能かどうかも調査する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度の実験計画よりも少ない種類の化合物で実験が進められたため、次年度への使用額が生じた。次年度は、高強度の励起が必要となるため、レーザー機器周辺の光学機器を取り揃える必があるが、現在、組み立てた測定システムに多少の改良を加えて機能性を高める必要性が予測された。このためにミラー等の多少の光学機器が当初の予定よりも余分に必要となることが判明し多少の予算を必要とした。また、材料の特性を高めるために重水素化等の実験を追加した、このため重水素化用の試薬を余分に購入する必要が生じた。 レーザー機器周辺の光学機器および、組み立てた測定システムの改良は実験初期の6月をめどに終了させる。また材料の重水素化および合成は計測と平行して行い、本来の実験計画に追随させる。
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Research Products
(2 results)